新型コロナウイルスの感染者数が世界全体で30万人を超えた。中国の次に「第2の震源地」となったイタリアは深刻だ。隣国のフランスではルーブル美術館の職員が「労働法」を盾に勤務を拒否する事態が起こった。同法には、生命や健康に差し迫った重大な危険がある場合、労働者には職務から「退く権利」が認められている。日本では職場が同様な状況な陥った場合、法を盾に撤退することはできるのか。かつて歌手デビューを果たした元アイドルの平松まゆき弁護士にQ&A方式で解説してもらった。
「退く権利」を定めた条文はないけれど…
Q…フランスの労働法では生命や健康に差し迫った重大な危険がある場合、労働者には職務から「退く権利」が認められているのだそうです。そのため、ルーブル美術館の職員が法に則って働くことを拒否したそうですが、日本において似たような法律があるのでしょうか。
A…「退く権利」を明確に定めた条文は日本の労働法にはありません。日本の労働者が労働を拒否することができるとしたら、有給休暇の取得か、ストライキということになると思われます。ただし、有給休暇は無限ではありませんので使い果たすと欠勤扱いになりますし、ストライキも労働の対価としての賃金を失う結果となります。
Q…欠勤扱いにされたくない場合は出社しないといけないということになりますか?
A…労働契約上は労働者は労務を提供する義務がありますから、感染したくないという思いだけで欠勤すれば、それは労働者側の義務違反になってしまします。一方で会社にも「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」(労働契約法5条)という、安全配慮義務が課せられています。ですから、明らかに不衛生な状況下で勤務を強いられる場合には、法律違反を理由に働き方の改善を求めるよう会社と交渉することはあり得ると思います。
Q…ストライキをすることはできるのでしょうか?
A…ストライキは、憲法、労働組合法で認められた団体行動権です。ストライキをする主体は原則として「労働組合」ですから、個人的にストを起こしても単なる職場放棄や欠勤になってしまいます。最近では外部の労働組合に加入する例や非正規社員のためのユニオン等も見られ、選択肢は広がっている印象です。もっともストまではちょっと…と思われる方が大半でしょうけどね。
Q…新型肺炎問題は法曹界には影響していますか?
A…はい。裁判期日が延期されたり、電話で裁判をする暫定措置が始まっています。裁判は基本的には税金を使って運用されるわけですから、いつまでも延期するわけにはいかず、裁判所も苦慮している様子です。また刑事弁護のために警察署や検察庁に行くと、体温を測ったりマスクの着用を義務付けられたりします。或いは、弁護士会のメーリングリスト等で特に中小企業向けの法律相談・支援事業のためのさまざまな情報が全国から集約されつつあります。法曹三者とも異例の対応を余儀なくされています。一日も早く収束することを願います。