元世界王者が握る「おにぎり」の味 山中竜也氏は午前3時までカウンターに

あの人~ネクストステージ

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 カウンターの中でニコニコとおにぎりを握る。笑顔の主は元ボクシングWBO世界ミニマム級王者・山中竜也さん(24)だ。2018年8月の引退から半年後の昨年4月、大阪・北新地にオープンしたおにぎり専門店「おにぎり竜」の店主。転身のきっかけは、ジムの先輩で元3階級制覇王者・長谷川穂積さんによるあだ名だった。

 ボクサーとしては1年の間に天と地を味わった。17年8月に王座を獲得。しかし18年7月、2度目の防衛戦で判定負け。試合後、病院に搬送され「急性硬膜下血腫」と診断された。日本ボクシングコミッションは規定で「頭蓋内出血と診断された場合、ライセンスは自動的に失効」と定めており、山中さんは23歳の若さで引退した。

 ゼロから社会人生活を送ろうとしていた時、長谷川さんが自身のSNSに、山中さんの顔がおにぎりに似ているとして「おにぎりマン」と称し投稿。山中さんの後援者で飲食店を経営するオーナーが投稿を見て「うちの空き店舗でおにぎり店をしないか」と“スカウト”した。料理の知識も経験もないまま、料理人養成学校に通い「だしの取り方から学びました」と修行。今では具材23種類を自身で調理する。

 おにぎりは「母が作ってくれた塩むすびが思い出」。女手一つで山中さんをはじめ6人のきょうだいを育ててくれた母・理恵さん(48)の愛情あふれる味が原点となっている。

 イチ押しの「乱王(らんおう)醤油漬け」は、現役時代にタンパク質補給のためよく食べたという卵黄の醤油漬けを応用。大分県産の卵の黄身をだし醤油に漬け込み、うまみたっぷりの卵ご飯風に仕上げる。「米は山形県産つや姫。3種のブレンド塩を使ってふんわり握る」とこだわりは強い。午後3時に出勤して準備をし、午前3時の閉店までカウンターに立つ。「長谷川さんに『世界戦の前と同じくらいしんどいと思うけど頑張れ』と言われ心構えしていたので、さほどしんどくはない」と前向きだ。

 目下の目標は「母に家を建ててあげたい。ボクサーとしてはかなえられなかったので。そして、おにぎりで1人でも多くのお客さんを幸せにしたい」と。リングで戦った両手で握るおにぎりは、孝行息子の愛情がこもった優しい味だ。

(デイリースポーツ・中野 裕美子)

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