心がちぎれそうな時に読んで欲しい…絵本作家ヨシタケシンスケが新境地で描きたかった思い

広畑 千春 広畑 千春

 「人間はいろんなところで選択を迫られて、自分の意思とは違う道を選ばなければならないこともある。思い描いたものと違う現実に直面することもある。この本が腑に落ちるタイミング―そういうのがあると思うんです」

 「当時の僕もそうでしたが、とてつもなく辛く悲しいことが起きた後も、自分の周りは変わって行ってしまうんですよね。どんどんと、自分の望む形でなくても。でも自分だけは、足元が揺らいでグラグラになって世界もきゅーっと小っちゃくなって…。時間が経てば知らないうちに少しずつ世界は緩んで広がっていくんだけど、どうにかして早く広げなきゃ、目の前にある日常に戻らなきゃと思うから余計に苦しくなってしまう。ゆっくり、『その時』を待っていい―。去年の僕はそう言ってほしかったんだろうな、と」

 「ダメになったからといって、あきらめるのはすごくパワーがいりますよね。僕自身すごくグチグチするタイプ。ダメと分かっててもつい振り返って、どうしてそうなったのか逆算して…そんな自分にも腹が立ってしまう。それなら、失ったものと今ある現実を同じ熱量で思えたら。無くなったのではない…そう思いたかった。他の世界にある証明なんてできないし、しょせんは頭の中にしかない理想です。でも現実と切り分けてそれを大事にできたら」

 初版は1月28日に発売されたが、編集担当者によると、刷り出し段階での書店との商談でも泣き出す人も。既に重版が決まっており、出版社には学校での人間関係がうまくいかなくて悩んでいたけれど「時間が解決してくれるかも」と感じられたという子や、2度の流産を経験した女性から「ずっと忘れなきゃと思っていたけど、もしもの世界にいると思うと、救われました」という声も届いているという。

 「もちろんこの考え方で全て説明できるわけじゃないし、あくまで僕が考える『選択肢』の一つ。ホッとする人もいれば、嫌いな人や忘れることで救われる―という人もいると思う」とヨシタケさん。普段のシニカルな視点とも違う表現に「言いにくいし恥ずかしいけど、やっぱり僕自身が弱ってた。学校の先生の言葉ってなんであんなにキレイなんだろう、と皮肉に思っていたけど、どんな人間でも真面目な言葉を言って欲しいときがあるし、受け入れて欲しいときがあるんだな、と。それも含め『人間ってブレる生き物なんだな』と子どもたちにも感じてもらえたら、と思いますし、そんな僕を許してほしい。僕もそんな世界を許したい、なんて思うんです」

 たとえ、もう手にはできなくても、確かにそこにあった。

 だからこそ。

 「ゆっくり、ゆっくり、 だいじに、だいじに、 おおきく、おおきく、 たのしく、たのしくしていこう。」(「もしものせかい」より)

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