兵庫県相生市の谷口芳紀市長(75)が21日、まいどなニュースの取材に応じ、「申し訳なかった」と兵庫県知事選挙をめぐる言動を謝罪しました。11月14日、兵庫県知事選挙で稲村和美氏支援を打ち出した市長会有志の記者会見に出席した谷口市長は、机をバンバンたたきながら「悪いやつを兵庫県から追い出す」などと斎藤元彦知事を批判し、「何が悪い!」と怒りをあらわにしていました。
机をたたく動画はSNSで広く拡散され、相生市には「パワハラだ」「いつもあんな態度なのか」と批判の電話やメールが800件以上寄せられました。谷口市長は携帯電話を持っておらず、インターネットもしないアナログ派のため、ネットの炎上にすぐ気づかなかったといいます。
筆者は新聞記者時代に相生市に赴任し、2年半谷口市長を取材しましたが、市長が市職員を怒鳴るところを見たことがありませんでした。「声を荒げるタイプじゃない」と相生市の関係者は言います。なぜ記者会見で感情的になったのか。数年ぶりに再会した市長に聞きました。
相生市の谷口芳紀市長は11月14日、県内29市長でつくる市長会の有志22人の代表として、神戸市内で行われた記者会見に出席しました。
「2日前に小野市の蓬萊務市長から『(記者会見に)来れるか』と電話があった。お世話になった西播磨県民局長が関係する話なのに、姫路市長も西播磨のほかの市長も所用で会見に来られないと聞き、西播磨から誰か(市長が)出ておかないと、と思って出席することにした」
市長7人が順番にあいさつする中で、谷口市長が話す表情は徐々に険しくなり、「悪い奴を兵庫県から追い出して、新しい風を入れるのは誰や言うたら、稲村や!」と稲村氏支持を宣言して机をたたき、「やはり上司として、部下が亡くなられた」と西播磨県民局長自死の責任にも言及し、「その道義的な責任を感じられないというのは、私は少なくとも、県知事として資格がないんじゃないかと、こう思っております」と再び机をたたき、「何が悪い!」と声を荒げました。
谷口市長は一連の言動について「ちょっと興奮したんか、感情的になってしまって…」「選挙になるとえらい興奮してしまう」と釈明し、「たくさんの人からご批判を受けて、申し訳ないと思ってます」と頭を下げました。
市職員に対しても机をたたき、怒鳴るようなパワハラをするのかと問うと、「日頃はそんなことはしない」と否定しました。
市長に20年以上仕える市幹部によると、職員に対して威圧的に振る舞うことはなく、「なぜあんなにヒートアップしたのか分からない」と不思議がります。一方、演説で聴衆の関心を引くために声を大きくしたり、演台をたたくことはあるといい、「報道陣がたくさんいて、テンションが上がってしまったのかもしれない」と別の市関係者は推察します。人口2万7000人の相生市では長らく定例記者会見が開かれておらず、自身の市長選は6回連続で無投票当選。激しい選挙戦の中、多くの報道陣に囲まれて演説するのは、本人にとって異例のことでした。
そして、携帯電話を持っていない谷口市長は、机をバンバンたたく動画が拡散されていることに気づかず、対応が後手に回りました。
「記者会見の2日後に近隣市のイベントに顔を出したら、『谷口さん、なんか(ネットに)出てるけど』と言われ、次の日もそんなことを言われて…」。市関係者の話を総合すると、斎藤元彦知事の再選後、相生市役所へ届く抗議の電話、メールの多さに驚き、事の重大性に気づいたとみられます。SNSで寄せられる批判に対しては「なかなか実感がないんですわ」と戸惑いも見せました。
斎藤知事の再選については「そら選挙の結果が出たんですから。兵庫県にはお世話にならなあかん」と11月26日に知事と意見交換する懇話会に出席し、「知事に歩み寄ってお詫びしたい」と自ら謝罪する意向を示しました。
「はじめから斎藤さんとは良好な関係だった」「全然わだかまりはないし、根に持ってない」と今後の県市の連携に影響はないと強調しました。