あまりにも隠れすぎた鉄板料理店「内山田」(大阪市福島区)は、あることがきっかけで、いまや広く知られた人気店になっている。転機になったのは少し離れた「関西将棋会館」からの出前オファー。そう、この店のハンバーグランチは若手実力ナンバー1の藤井聡太七段のお気に入りとなり、食べれば連戦連勝。”勝負メシ”として注目されるようになったのだった。
これは難問だった。店の周辺をどれだけうろついたことか。鍬焼きと日本酒の店「内山田」は曽根崎通の出入橋交差点を南へ下ったところ。スマホのナビを何度も確認。ナビはその店らしき地点を示しているが、その店らしきものはない。
確か、駐車場で半地下になったようなところ、と聞いていた。たまらず、店にもう一度電話してエスコートしてもらい、ようやくたどり着くことができた。
天井に頭がつきそうな半地下の駐車場のダウンスロープを下りると、右手に「内山田」の看板。いやいや、こんなところにあるなんて、これは分かりづらい。鉄の扉を開けると、そこは別世界だった。落ち着いたたたずまいの石段と灯籠。昼間とは思えない空間が広がっていた。
なんでまた、こんなところに店を構えたのだろうか。
オープンしたのは2016年6月。現在35歳の内山田勇希店主は28歳で独立し、3年後にここに移ったと言う。
「前の店もこの近くだったのですが、狭かったのでいい物件を探していたところ、ここが空いていたんです。変な場所とは聞いていましたが、想像以上。守衛室のような印象を持ちました。この前は喫茶店だったようで一から作り直しました」
店内はまさに大人の隠れ家。9人掛けのカウンターにテーブルは18席。2人から最大18人まで利用できる。ただし、引っ越し当初はあまりにも隠れすぎており、来客ゼロの日もあったと言う。
「夜は店の灯りが点いているので初めての人にもまだ分かりやすいのですが、昼間は分かりづらくて迷う人がほとんど。たまに違う店に行く人もいました。最初はどうなることかと不安でしたが、以前の店の常連さんに支えてもらいました」
そんな中、17年ごろからランチとしてハンバーグを提供するようなってから店の名前は徐々に浸透していく。やがてJR福島駅近くにある関西将棋会館から棋士が足を伸ばすようになった。
ランチメニューはプレミアムハンバーグ(1100円)のみ。店主の内山田さんによると特徴は「和牛を使用し、粗挽きと細挽きを程よくミックスさせ、(一般的よりも)10倍近くこねる。そうすると粘りが出て、うまみを閉じ込めることができる。これをプレーン、テリヤキソース、玉ねぎのシャリアビンソースで召し上がっていただきます。どれもお勧めです」とのことだった。
一気に評判になったのは若手の注目株、藤井聡太七段がランチで注文するようになってからだ。
「将棋会館のレストランが木曜定休日ということで出前を頼まれ、配達するようになったのがきっかけ。それから、藤井さんがハンバーグを食べると必ず勝つとメディアで取り上げられるようになり、勝負メシとして注目されるようになったんです。そこから将棋ファンや、近隣の人も来店してくださるようになりました」
もちろん、夜のメニューも好評だ。ひとつひとつ厳選された季節の食材を鉄板の上で一口サイズに焼き上げる串料理がメーン。店主の内山田さんは利き酒師でもあり、日本酒も40種類と豊富だ。
「料理は和食に近い。日本酒に合うように油を極力使わず、水分を飛ばしてます。ひとつひとつの量も抑えめにしています」
2種類あるコース料理も悪くないが、金曜日の夜なら評判のハンバーグも多彩な料理も楽しめる。行くなら金曜日だ。その前に、くれぐれも通り過ぎないようにしてください。