面積のほぼ9割近くが山林という対馬。ツシマヤマネコはその豊かな自然の中で過ごし、たまに集落近くの田畑などに姿を見せてきました。ネズミやモグラ類を食べるほか、夏には昆虫類、冬には鳥類を多く食べながら暮らしています。
「ツシマヤマネコは生態系の中では大型の肉食獣にあたりますが、実は対馬にはほかにも同じような肉食獣がツシマテン、チョウセンイタチと2種類います。島の中に3種類もの肉食獣が生きてこれたのは、エサになるような生き物が数多くいたからですが、それは多様で豊かな自然が対馬にあったことの証明でもあるんです」と小川さん。
施設内には対馬の自然を再現したジオラマもあり、ツシマヤマネコがどのように暮らし、どのような食べ物を獲ってきたかがわかりやすく解説されています。ヤマネコのことをよく知ることで、ぜひ対馬の自然の素晴らしさを実感してほしい…と小川さんは語ります。
一方で、ツシマヤマネコの危機的状況は続いています。各種開発や、農地や山林の放置によって、良好な生息地がなくなったことが要因です。近年はシカやイノシシの数が増え、山林の下草を食べ尽くしてしまうなど、生態系のバランスを脅かす事態も起きているそう。ほかにも、動物のワナにかかったり、野犬に襲われたり…。野良猫などと交わることで、イエネコの感染症にかかり、命を落とすこともあるそうです。
また、大きな要因として、交通事故もあげられます。分かっているだけでも毎年約5件ほど起こっており、特に秋から冬にかけて子ネコが親から独り立ちする時期に多発するといいます。
島内ではツシマヤマネコの飛び出しを防ぐ柵や、道路下の水路トンネルに小動物が通行できる通路をつくるなど各種の対策が取られているといいますが、それでリスクをゼロにできるわけではありません。過去に事故があった場所や、今後事故の起きる可能性が高い場所には、注意看板が設置されています。住民らが手作りした看板もあり、ユニークなつくりが目を引きます。
対馬では、ヤマネコの交通事故被害を最小限に防ぐため、事故を起こしたり、道路などで死傷したヤマネコを見つけたときのために、24時間受け付ける電話番号が用意されています。連絡を受けた際は夜中でも同センターの係員が駆けつけるそう。「子育て中の母ネコが事故にあうと、仔ネコが餓死してしまうリスクがあります。現場近くの山の中に分け入って、保護できるネコがいないか全力で捜索することもあります」と小川さん。同じ連絡先でツシマヤマネコの目撃情報も集めており、生息数や生息場所の調査につなげているといいます。
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ツシマヤマネコは、上述の福岡市動物園のほか、井の頭自然文化園(東京都)、よこはま動物園ズーラシア(横浜市)、京都市動物園など、国内8つの動物園で32頭が飼育・繁殖されており、ツシマヤマネコの飼育繁殖と、保護のための普及啓発が行われています。将来的にはそれらのヤマネコを対馬で野生復帰させられるよう、技術開発を行っています。対馬南部には野生復帰の訓練を行うための場所「ツシマヤマネコ野生順化ステーション」が作られ、ただいま施設の中で本当にネコが野生を取り戻しながら生きていけるのか、確認をすすめている段階だといいます。
また、ツシマヤマネコの保護には、ヤマネコが住みやすい環境を取り戻すことも不可欠です。田んぼを餌場として利用することが分かっており、エサとなる多様な生き物があふれる田んぼをつくるため、減農薬・無農薬で米作りを行う活動も行われています。
「ツシマヤマネコの保護をきっかけに、対馬ではより豊かな自然を育もうという動きが地域で広がりつつあります。ツシマヤマネコのこと、そしてツシマヤマネコが生きてきた対馬のことを、より多くの方々に知ってほしいです」と小川さん。2月22日はネコの日です。
■環境省・対馬野生生物保護センター http://kyushu.env.go.jp/twcc/