故郷を知らないホッキョクグマ 雪がうれしすぎて野性全開…人工降雪機に2400万円掛けた園の思い

茶良野 くま子 茶良野 くま子

 記録的暖冬だった今シーズン、人も動物も雪不足に頭を抱え続けた中…吹き殴る大量の雪に野性むき出しで吠えまくるホッキョクグマが見られるスポットが神戸にあるのをご存知でしょうか。それは市立王子動物園。積もっているのはもちろん人工雪ですが…雪のほとんど降らない神戸で、全国に先駆け、巨費を投じてでも雪を降らせるのには、“故郷”を知らずに暮らすホッキョクグマへの関係者の深い思いがありました。

 「雪すごい!」「いつ降ったん?」。ホッキョクグマ舎の前で驚く親子連れやファンたちには目もくれず、時々響く「ガガガガーッ」と轟音とともに噴き出す粒の大きい雪に向かうのはメスの「みゆき」。大阪・天王寺動物園生まれでずっと日本で育ってきた29歳です。雪の中に埋められた食べ物を探し、大きな手(前足)で掘って探し当て、嗅覚の良さを見せつけます。突然立ち上がって雪の斜面を両前足で何度も押す「心臓マッサージ」のような動きは、流氷の上でアザラシを捕まえるときの行動です。雪の上で転げ回ると、足裏のザラザラしていそうな肉球や、毛が密集しているのが見えます。氷の上でも滑りにくく、保温効果も抜群なのです。

 同園によると、降雪機を導入したきっかけは、2005年12月22日の大雪でした。神戸は瀬戸内海に面した温暖な気候で、雪が降るだけでも結構なニュース。ところがこの日の朝は、前夜から降り続いた雪で神戸市内は一面の銀世界に。交通機関が乱れ市民生活が大混乱する一方、みゆきとオスのアイス(2015年5月に死去)は大喜びで、真っ白になった運動場で、腹ばいになってズズズーっと進んだり、雪の上をゴロゴロしたり、夢中で遊んでいたそうです。

 「2頭とも、国内の動物園生まれで野生の暮らしを知らないし、本物の降り積もった雪なんて知らないはずなのに、雪を舞い上げて子どものようにはしゃいでて…。これまでに見たこともないほど生き生きとした表情でした。それを見て『これやっ!』と思いついたんです」と設備担当のZIZI1号さん(スタッフブログでのペンネームです)。「こんなうれしそうな、きっと野生の本来の姿をもっと多くの人に見てほしいし、みゆきたちのストレス解消にもなるだろうと思いました」と振り返ります。そんな訴えが実り、2012年12月、2400万円をかけて人工降雪機が設置され、1日約5トンもの人工雪を降らせることが可能に。冬限定のイベントとして「ホッキョクグマの雪遊び」もスタートさせました。

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