「怪我で楽器をあきらめた全ての人に伝わって欲しい」―。仕事中の事故で指先を失いながら、シワも指紋も自分の指そっくりのシリコン樹脂製の「義指」と出会い、再び弾けるようになった女性のツイートが、話題になっています。指先には神経が集中しており、ケガで長く続けてきた仕事や趣味を諦めてしまう人も少なくありません。ツイートしたmatutika(@matutika36)さんにお話をお聞きしました。
matutikaさんは今から6年ほど前、当時勤めていたお店のキッチン内で、お肉をミンチにする機械(ミートチョッパー)に巻き込まれました。診断は「左手中指末節骨損失」。完治には約半年かかり、指は1㎝ほど短くなり、爪も根元は残っていたものの骨が欠損しているため真っすぐは伸びず、丸みを帯びています。
現在は日常生活に支障は無いものの、指の先が何かに接触するたび、骨が直接当たって痺れるような痛みが走り、中指を使うことはなくなりました。「普段は無意識に左手中指をかばっていますが、ふとした時にぶつかったり触れてしまったりすると今でもジーンと痛み、寒い日など季節の変わり目などは違和感も覚えることが多いですね」と言います。
matutikaさんは5歳からピアノを始め、大学もピアノ専攻科に通い、社会人になっても趣味で弾き続けていました。ですがケガの後は痛みで弾けず、タッチの軽いキーボードに変えてみたり、中指を使わない方法で弾いてみたり試行錯誤していましたが、そのさ中に偶然「愛和義肢製作所」(東京都)で義指を制作した人のツイートを目にしました。
「見た瞬間、『これをつければもしかしたら痛みなくピアノが弾けるかもしれない…』と思い、いてもたってもいられず、すぐに愛和義肢さんに問い合わせのメールを入れました。昨日のことのように覚えています」とmatutikaさん。
一方、同製作所の代表で義肢装具士の林伸太郎さんは「実は、楽器の相談はピアノ、ギター、笛など多いんです」と話します。一人ひとりに合わせた義肢づくりにこだわる同製作所では「部分的な視野では『その人の指』は作れない。お顔を含めその方のお人柄を感じられるように」と全身のスナップ写真を撮影しており、matutikaさんも写真を撮影。右手中指を反転させたものをモデルに、3Dプリンタなどを使って成型し、ピアノを弾けるようシリコンの固さを調整。鍵盤の上で引っかからないよう表面にフッ素コーティングを施した後、スナップ写真やmatutikaさんの意見を参考に手作業で微修正を重ね、このほど完成させました。