「それを初めて見た時、『これは、間違いなく私の指だ…!』と感極まりました。義指を使うのは初めてだったのですが、装着した時のフィット感も素晴らしかったですし、生まれてから誰よりも一番長く付き合ってきたはずなのに、愛和義肢さんの方が私の中指に詳しい気さえしました」と振り返ります。
最初に弾いたのは、久石譲さんの「Friends」。高校生の頃、初めて「自分が弾きたい」と選んで先生に持っていった曲。初めての現代曲のレッスンに驚きつつ、「大好きな曲が弾けるようになった」という喜びが詰まった、思い出の一曲でした。
「怪我をしてからの生活というのは、当たり前にあったはずのものが二度と戻らない、という喪失感だけでなく、あれもできない、これもできない、と受け入れざる現実にも直面します。もし事故直後に私があのツイートを見かけても、『義指』という現実(指がないということ)は受け入れきれなかったかもしれません。時間が経ってようやく今の自分を受け入れ、これならできる、こうすればできる、という考え方になり、そんな中あのツイートに出会えたのも奇跡だと思っています」と話します。
「私と同じように悩み、苦しんでいる方がいるなら、こんな選択肢もあるんだよ!ということを発信したい一心で」投稿したmatutikaさんのツイートはこれまでに1.6万件のリツイートと4万いいねを集め、リプ欄には「すごい」「美しい手だ」という声のほか、同じように事故に遭った人から「元気が出ました。ありがとう」といったコメントも寄せられています。matutikaさんは「私自身も知らないことが沢山あり驚かされましたし、必要としている方に情報が届いたことは本当にうれしい。私がツイートを見て救われたのと同じように、私のツイートを見て誰か救われる方がいたら何よりですし、幸せの連鎖がもっと拡がりますように願っています」と話します。
愛和義肢製作所の林さんは「現在の作業工程は先端機器と職人技術が融合したもの」といいます。機器の発展で、シワや指紋といった「その人の指の表情」まで再現できるようになり、左手の人差し指から親指を除く全ての指を再現したこともあるそう。ですが、「機械に頼るだけではご本人の指にはならない」と林さん。だからこそ、その人その人の思いを聞き、来し方を尋ね、もし音楽を続けたいなら、ギターは強度、笛は笛穴を完全に塞げるように指腹を柔らかく…など相談をして仕様を決めているといいます。
matutikaさんは今もリハビリを兼ねて「Friends」を練習中といい「決して上手な方ではないので時間はかかりますが、一曲ずつ昔弾いた曲をじっくりさらっていこうと思います」とも。ライブ配信サービス「ツイキャス」で歌も配信しており、「私の指はこれまでも、これからも私の指であり続けます。だから『生まれ変わった』というよりは、『一緒に生きていくパートナーと出会った』という表現が近いかも。いつの日か自分の弾く鍵盤で歌もお届けできたら」と話してくれました。
愛和義肢製作所 https://aiwa-gishi.jp/