「アクセシビリティ」という言葉をご存知でしょうか。直訳すれば「近づきやすさ、利用しやすさ」で、身体の状態や能力、言語の違いなどに関わらず、いろいろな人が使えることやその度合いなどを示します。ただ、どんな素晴らしい工夫や技術も、実際に使う人が「使いやすい」と感じられなければ、宝の持ち腐れ。開発者と当事者をつなごうと活動する先天性多関節拘縮症の男性を取材しました。
「ユニバーサル」なのに…
NPO法人「アイ・コラボレーション神戸」の板垣宏明さん(35)。生まれつき、足や手、腰など全身の多くの関節がこわばり、動かすことができない先天性多関節拘縮症です。拘縮の程度は個人差がありますが、原因は不明で、発症率は1万人から10万人に1人といわれています。
板垣さんの母親は「どうにか一人で生活できるように」と障害があっても使いやすいという「ユニバーサルスプーン」を始め、「ユニバーサル」と付いたものは手当たり次第取り寄せてくれました。「でもスプーンは僕には使いづらくて…。結局は無理してはしを使っていた。配慮してあるものでも使えないんだ…と逆にひしゃぎこんでしまった」
中学生のころには、ナイキのエアマックスが大ブームに。同級生たちがこぞって新作を履いていましたが、ひざを固定して歩く装具を着けていた板垣さんには「無関係」でした。代わりに履いていたのは、まひがある人向けのマジックテープのシューズ。「大きくて重くてダサくて、『ザ・障害者』みたいだと嫌だった。でも、自分はこんなだからどうしようもない、と市販品を何とか工夫して履いていた。あきらめること、我慢することが当たり前だった」と言います。
当事者の声を
ですが、19歳で自立生活訓練センターに入り、考えが変わりました。それまでの生活はすべて家族に依存していましたが、一人で暮らすようになり、日常生活動作をしやすくする自助具などを使い、自分でできることが実は多くあることを発見。「あのユニバーサルスプーンだって、すごく熱い思いで作られたはず。もし、当事者の声を開発者に届けることができたなら、ユーザーも開発者もみんなうれしいのでは」と思うようになりました。