阪神・淡路大震災時の火災で全焼し、1年半後の1996年7月に再スタートを切った神戸の銭湯「芦原(あしはら)温泉」がこの1年、「日本一若者が訪れる銭湯」を目指して地道な挑戦を続けている。10〜20代を中心とした若い利用者に声をかけて写真を撮り、「みんな同じ中学の卒業生です」「当店の20年来のお客様」「たくさんの友達と『裸のつきあい』を続けて来ました」など、人となりがわかる短いコメントを添えてTwitterやInstagramに毎日投稿しているのだ。番頭の安田孝さん(50)は「言葉を交わしたこともなかった若い世代と親しくなれた。私にとって大きな喜びで、財産になっている」と話す。
若者が楽しそうな銭湯
「神戸芦原温泉」のSNSアカウントには、銭湯スタンプラリーの冊子を手に微笑む女性や誇らしげにピースサインを掲げる中学生、九州での就活帰りに寄った奈良の青年など、利用者の楽しそうな写真がずらりと並ぶ。裸で無防備になる場所だからだろうか、どの写真からも若者たちが心底くつろいでいる様子が伝わってくる。
「単にお風呂やサウナに入るだけでなく、地域や世代の垣根を越えて、誰もが気軽に集まれる場をつくりたい」と安田さん。若者の写真をアップし続けるのも、まずは親しみやすい雰囲気を発信して、若者に足を運んでもらおうとの思いがあるからだ。
ライバルは介護のデイサービス
芦原温泉の創業年は不明だが、少なくとも100年以上の歴史があるという。安田さんの祖父が50年前、売りに出ていた銭湯施設を買い取り、『芦原温泉』の名前もそのまま引き継いだ。だが父昌弘さん(75)の代だった1995年1月17日、地震後に発生した火災に巻き込まれ、全焼してしまった。
再建後は、午後2時から翌朝10時までのオールナイト営業に。当時としては画期的なスタイルで、安田さんは「最初の2、3年はものすごい売り上げやった」と振り返る。しかしスーパー銭湯の台頭や常連客の高齢化で状況は次第に厳しくなっていく。「今はもうデイサービスすらもライバルなんです」。利用者数はピーク時の3分の1程度まで落ち込んでいるという。
心機一転、SNSで反攻
TwitterとInstagramにアカウントを開設し、若者に積極的に声をかけ始めたのも、右肩下がりの客数を少しでも伸ばそうと考えたから。今のところ「売り上げ増には結びついていない」というが、それでも「いつも見てますよ」「私も撮って」などと客の方から声をかけられるとやっぱり嬉しいそうだ。
「今まで数百組に写真をお願いしたが、彼らとどんな話をしたかは全部覚えている。これまでだったら『来て帰って終わり』だったお客さんとの距離も縮まった」
そんな安田さんには、目標とする銭湯の形がある。岡山の「清心温泉」だ。
経営者が本業の傍ら、週末などに不定期営業していたという名物銭湯。営業日には屋台が出るなどして、交流の場として多くの人に親しまれたという。残念ながら2017年11月に火事で焼失してしまったが、「あの空間、思いを芦原温泉で受け継ぎたい」と安田さん。「今以上に気軽に集まれる場にしていければ」と意気込み、今日も若者に声をかける。
「こんばんは、写真撮らせてもらってもいいですか?」
■芦原温泉のTwitter @kobeashiharayu
■芦原温泉のInstagram @kobe.ashiharaonsen
■芦原温泉の公式サイト http://kobe-ashihara.sakura.ne.jp/