ゴーン被告の保釈金15億円は安すぎたのか?すでに起訴済み…裁判どうなる?

第1回公判前整理手続きのため、東京地裁に入る前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告=2019年5月23日(提供・共同通信社)
第1回公判前整理手続きのため、東京地裁に入る前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告=2019年5月23日(提供・共同通信社)

 元日産CEOのカルロス・ゴーン被告が「私はレバノンにいる」と声明を発表したのが2019年の大晦日でした。「人質にはならない」という内容や、タイミングから見て、用意周到な逃亡劇だったことがうかがわれます。

 刑事事件の被疑者や被告人が海外に逃亡した場合というのは、実はややこしいのです。インターポールの銭形警部(@ルパン3世)が「タイホしてやる~!」と追い駆けてくれるわけではありません。ICPO(インターポール)を通じて国際手配したうえで、他国で捕まったとしても、一定の場合に犯罪人引渡条約に基づいて引渡しをできるだけです。

 しかし、日本が引渡条約を締結している国は極めて限られていて、レバノンは含まれていません。実はインターポールは各国の警察をつなぐ連絡機関程度の役割しかなく、銭形警部のような独自の捜査官を動かすものではないのです。

 そのため、保釈の段階で海外渡航は禁じていたようです。これに違反したということでゴーン被告も保釈を取り消され、保釈保証金を没取されることになったようです。(刑罰としての「没収」と区別するために「ぼっとり」と読むのが業界用語です)

 ゴーン被告の保釈保証金は当初10億円と報じられていました。そもそも最悪有罪となって服役したとしても、裁判さえ終われば返還されるはずのお金でした。逃亡を防止するための保証金なので、裁判が終わるまで逃げないで出頭すれば返還されるのです。一般人の金銭感覚からすれば、何年か服役しても返還を受ける方が得だと思うような気がします。

 実際は15億円だったということのようですが、これだけのお金を捨ててでも逃走するのですから、何か裏があるような気がします。死刑になるかもしれないというような裁判なら逃げるのも分かりますが、そうでもないとなると、いったい何が起きたのでしょうか。

過去の巨額保釈保証金没取例

 過去の例ですぐに思い出すのが、イトマン事件の許永中被告のケースです。平成の初めころでしたが、あの件は許可を得て出国し、そのまま逃亡したというケースでした。

 一方、今回のゴーン被告は自家用ジェット機で出国しています。年末の出国ラッシュの入管の混乱を狙ったことは明らかでしょうし、自家用ジェットであれば、ハイジャックの心配もないので、荷物の検査が緩かったということもあったのかもしれません。

 許永中被告の場合は数年後に国内に戻っているところを身柄拘束されて、裁判が再開され、最終的には実刑判決が確定の上、服役していますが、ゴーン被告はこれからどうなることやら。

 一般に「欠席裁判」で不利に扱われても仕方がないという用法の場合、民事裁判を念頭に置いてのものと思われます。民事の場合、欠席した被告は、原告の主張を認めたものとみなすとされています。訴状に反論があるなら出席して主張する必要があるのです。

 一方で、刑事裁判の場合は、そもそも被告人が出席した上でないと裁判を開き、判決を言い渡すことができないというのが大原則です。

 被疑者の逮捕や勾留と言う身柄拘束の手続きも裁判への出頭確保と言うのがまず一番の目的なのです。これ自体が一種の制裁というイメージもあるように思いますが、あくまでも、逃走や証拠隠滅を防止するための手続という建前です。

 許永中被告の場合は、国内に戻った時点で裁判を再開することができたのですが、ゴーン被告の場合は戻って来ないと考えられます。起訴済みの裁判はどうなるのでしょうか。気になるのは時効との関係です。

 刑事訴訟法で定められている時効は、正式には「公訴時効」のことで、その期間内に起訴しなければならない、と言うものです。刑事ドラマによくある時効寸前の逮捕劇なんて言うのは演出過剰で、現実にはあり得ません。

 今回は、すでに起訴済みなので、裁判所に未済事件として残っていき、被告人の死亡が確認された時点で、ようやく公訴棄却として終了という運びになるものと思われます。実は15億円の保釈保証金や逃走資金を負担してでも、ヘッドハンティングをしたいという企業か、国家が、どこかにあって、逃亡を支援したとしか考えられないわけです。

 ということは、保釈保証金が安すぎたということでしょうか。保釈保証金を決定するにあたっては、あくまでも検察が把握している、その時点での資産を基準にするしかありません。海外に隠し財産でもあれば、15億円でも安かったということになりかねませんし、ましてや他に支援者が現れることなど計算に入れようがないのです。自家用ジェットでの出国など、本当に想像の斜め上を飛んで行ってしまったと言うしかないのではないでしょうか。

 ゴーン被告は二度と日本の土を踏むことはないのでしょう。とすれば、許永中事件と違って、裁判もきっとこのまま終わりと思われます。試合終了のテンカウントゴングを鳴らすしかありません。このニュースが報じられたのが除夜の鐘響く大晦日だけに、ゴーン被告は鐘とともに去りぬ、そうゴーンウィズザゴングとなりカネません。

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