新年に問う「壊れゆく日本」の閉塞状況からいかに脱するか

夜回り先生・水谷修/少数異見

水谷 修 水谷 修

 2020年代が幕を開けた。景気が上向きだとする政府の見解は富裕層には該当しても、20年代の日本では貧富の差がさらに拡大するという見方もある。「生きづらさ」を実感している人たちも少なくない。教育家の水谷修氏は、富める社会からはじき出された人たちに向けた視線から「壊れゆく日本」の閉塞的な状況を憂い、再生への思いを新年に吐露した。

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 今、私たちの国日本で、子どもたちが壊され続けている。そして、最悪の状況へと進んでいる。私はそう考えています。

 現在、日本各地で暴走族など、暴れ回る若者たちはほぼいません。また、中学校や高校で校内暴力を振るう子どもたちもいなくなっています。これは、今の若者たちや子どもたちには、以前のように暴れ回るエネルギーやその気力さえもなくしてしまったからではないでしょうか。その一方で、明日を見失い、うつろな目で日々を過ごす子どもたち、心を病み、自らを傷つけ死へと向かう子どもたちが増えています。

 現在、日本では、正確な数字は調査されていませんが、推定で200万人を越える子どもたち、大人たちが、不登校やひきこもりで苦しんでいます。また、120万人が鬱病に苦しみ、1100万人が心を病み、心療内科や神経科、精神科で治療を受けています。これに、非行や犯罪や薬物乱用に走る子どもたちと大人たちを足し、その予備軍を入れれば、国民の三割近くが、なんらかの問題を抱えていることになります。子どもたちはもとより、多くの大人たちも壊されています。こんな国に明日はあるのでしょうか。

 現在、政府は「日本は不況から脱した」と宣言していますが、本当にそうでしょうか。

 確かにIT関連の企業で、何千億円ものお金を手にする人も増えていますし、「億ション」と呼ばれる都心の湾岸地域の高層マンションも建てればすぐに売れる状況です。金持ちが増えたことは、実感できます。その一方で、日本の生活保護世帯は増え、子どもたちの7人に1人が貧困に苦しんでいます。経済の繁栄を支えた分厚い中流世帯が崩壊しています。そして、富は一部の人の元に集中し、多くの国民が貧困へと追いやられています。

 そのような中、私たちの社会全体がゆとりのない、いらいらした閉塞的な社会へと変貌している。それが子どもたちの生きる家庭や学校にまで広がってきています。そして、多くの国民が、特に子どもたちが明日を見失っています。

 その解決の答えは、子どもたちの中に。私は、そう考えています。

 「子どもたちは、社会の鏡である」とよく言われます。子どもたちは繊細であり敏感である。だからこそ、社会や環境の変化を大人より敏感に感じ取り、それにすぐに反応します。子どもたちの状況を見れば、その社会の持つ、また環境としての学校や家庭が抱える問題が見えてくるという意味です。まずは、子どもたちが、今を幸せと感じ、明日を夢見ることのできる社会を作ること。これが、今求められていることだと考えています。

 そのために、子どもたちを変えるのなら、まずは私たち大人が変わらなくてはならないのです。このことを今、多くの大人たちは忘れています。

 親である人たちに聞きたい。あなたの家庭は笑顔であふれていますか。教師たちに聞きたい。あなたの学校で、子どもたちは明るく輝いていますか。

 また、すべての政治家や官僚にも考えて欲しい。犯罪が起きたり、青少年問題が多発する背景には、まさに、この国や社会の在り方の中に根本的な原因があることを。結果に翻弄され、対処するだけでなく、その原因を取り除く努力をして欲しい。すべての国民が、特に子どもたちが、明日を夢見、そして自分なりの幸せを実現できる可能性がある社会を作って欲しい。そうすれば、ほとんどの問題は解決する。私は、そう確信している。

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