子年にヌートリアを食べてみた…捕獲対象の害獣が食肉として注目、弾力あってクセのない味

北村 泰介 北村 泰介

 ネズミ年の幕開けに「ヌートリア」を食べた。日本において、戦前はその毛皮が軍隊の防寒用飛行服などとして重宝され、戦後は農作物を食べる害獣として報じられてきた大型ネズミだ。子(ね)年にちなみ、ジビエ居酒屋「米とサーカス」(本店・高田馬場)が都内4店舗でヌートリア肉を使用した新メニューの新春限定フェアを1月末まで開催するという情報を聞き、さっそく販売初日の2日に「お雑煮」を唯一食べられる渋谷PARCO店に駆け付けた。

 まず、ヌートリアについて説明しよう。ネズミ目(齧歯目)に属し、体長40~60センチ、体重5~9キロ、オレンジ色の大きな前歯が特徴的。日本には1939年にフランスから輸入、飼育され、その毛皮が零戦のパイロットの帽子や軍隊の防寒用飛行服の裏地に使われたという。当時、軍の「勝利」にかけて「沼狸」(しょうり)と呼ばれ、戦時中には西日本を中心に全国で4万頭が飼育されたというが、戦後は需要が激減して山野に放たれ、野生化した。西日本地域では、稲や野菜など農作物の被害が報告され、また生態系への影響も及ぼしていることから、「害獣」として捕獲の対象となっている。

 90年代初頭、記者は兵庫県の播州地域で田畑を荒らすヌートリアを取材しようと、カメラを手に追いかけたことがあった。田園地帯で泥にまみれながら、まんまと逃げられた日から30年近くを経て、東京の、それも渋谷PARCOというおしゃれな空間内で料理として食べることになろうとは…。隔世の感に浸りながら、ヌートリアのお雑煮(税抜600円)と唐揚げ(同1280円)を注文した。

 3日までの限定販売となる雑煮に入ったヌートリアの肉片をかみしめた。弾力があり、その点で言うと筋肉質の軍鶏(しゃも)のような、その一方で、やはり哺乳類の香りも感じ、しいて言えば、猪に近いかなと思ってはみたものの、それも何か違う。これはもう、ディス・イズ・ヌートリア!というしかないだろう。

 ということで、かみ締めるほどに、濃厚な肉の味が後を引くが、思ったほどクセはない。雑煮の出汁が染みた白菜、ゴボウ、ニンジンなど野菜とも合う。唐揚げは首、肩、ももといった厚みのある部位の肉をゴマ油でカラッと揚げ、サクサクした衣と弾力のある肉で食べ応えがある。いずれも、事前にヌートリアだと教えられなければ、誰もこの動物の肉だとは想像できないだろう。それほど、違和感はなかった。

 同店を運営する「亜細亜TokyoWorld株式会社」のPR担当・宮下慧さんは「店頭で『ネズミ食べませんか』と言うと、引いちゃう人と興味を持つ方に分かれます。食べたお客様からは『意外と食べられるね』『豚肉ぽい』という声もありました。これまでもヌートリアはたまに出していたのですが、今年はしっかりやっていこうと思います」と新年に誓った。 

 同社ではヌートリアについて「中国の一部地域の料理店では『海龍』と呼ばれ、炒め物や揚げ物にされているそうです。今回仕入れたヌートリアは、岡山県でベテランの猟師さんが箱罠で獲ったものを解体処理場で安全に処理をしています。野生鳥獣の狩猟肉(ジビエ)のおいしさを知ってもらうことで、『害獣』という『存在しないほうがいい生き物』と一般的に認識されている存在の概念を変えたい。そんな思いから、今回の商品開発・フェアの開催に至りました」と説明する。

 「米とサーカス」では、今回紹介した2品のほか、ヌートリアの骨を5時間以上煮込んだ塩ラーメン「ヌートリアヌードル」、ヌートリアの醤油鍋と味噌鍋、塩焼き、グリルの全7品を提供。ちなみに、同店の通常メニューにある十二支の動物はウサギ、馬、鳥(カラスやダチョウ等)、猪がレギュラーである。来年は丑年。普通の牛肉ではない〝何か〟が何になるのか?そして再来年の寅年は…?新年早々、想像を膨らませた。

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