ホテルの客室清掃に小型のワゴンを導入し、作業を効率化する取り組みが始まっています。清掃スタッフひとりひとりが掃除の道具や補充用備品を持ち運べるようにすることで、用具を取りに行く時間を減らすとともに、清掃の様子を宿泊客の目に留まらないようにできたといいます。チェックインやチェックアウトの時間をより柔軟にしたいなど、ホテル利用者のニーズは多様化していますが、清掃スタッフは高齢化が進んでおり、働く負担の軽減しながら、いかにサービスを改善していくかが喫緊の課題でした。「働き方改革」を実現できたアイデアを聞きました。
導入したのは、全国でホテル事業を展開している東急ホテルズです。これまでの客室清掃では、新しいリネンや補充用のアメニティは大きなワゴンで運搬。掃除機などの道具も何人かのスタッフで共有していました。
「そのため、お客様がチェックアウトの際に、清掃が始まった部屋と・ワゴンの間をメイド(清掃スタッフ)が行き交う様子を見かけられることも多くありました。そもそも大きなワゴンが通路に置かれていると、まっすぐ歩けず、邪魔になってしまいますよね…。なんとか改善できないかと考えました」と話すのは、同社運営部で客室の品質管理を担当する岡部久子さん。
チェックイン・チェックアウトの時間をずらすケースも増えているほか、長期滞在の人が日中ホテルに戻ってくることもあります。いつホテルを訪れても清掃の慌ただしさを感じさせないようにすることも求められていました。
そこで、同社では客室清掃を引き受ける子会社を設立するのを契機に、清掃業務の見直しに着手。2019年3月より、小型ワゴンの活用を始めました。現在は36ある同社直営ホテルのうち、15カ所で取り組んでいるそうです。
兵庫県神戸市にある「神戸三宮東急REIホテル」で、実際に使われている小型ワゴンを見ることができました。病院などで使われている製品を、独自に改造。色調をホテルに合わせて落ち着いたものにしたほか、引き出しを新設したり、ハンドルをより持ちやすいものに変更したといいます。中には補充用の備品がたくさん収納されています。掃除機も個別にハンディな機種を用意し、ワゴンに固定できるようにしました。なお、現場の意向を受けて使いやすいものを検討しているため、ホテルごとにワゴンの大きさなどは異なるそうです。
清掃の様子を見せてもらうと、ちょうどワゴンを部屋の入り口すぐに寄せて作業されているところでした。広い部屋ではワゴンを室内に入れることもあるそうです。 作業の流れというと、(1)入ってゴミを回収(2)シーツをはいでベッドメイク(3)水回りの清掃(4)ほこりを取る(5)室内の備品の補充(6)掃除機をかける…といった具合です。
同ホテルでは、上記の作業をシングルの部屋では1部屋20〜30分、ツインの部屋では40〜45分程度で行っているそうです。今回の個別ワゴン導入で、移動の時間を減らすことができ、1部屋あたり2〜3分時間を短縮できるようになったといいます。また、ハンディ掃除機など小回りの効く用具をおのおの携帯できることで、より細やかな清掃ができるようになりました。実際、小型ワゴンを導入したホテルでは、清掃状況の点検時に点数が上がったところもあるそう。「時間を短縮できるようになり、これまで目の届かなかったところに気がつく余裕が出てきたのだと思います」と岡部さん。
ちなみに、同ホテルの規模で、1人のスタッフが1日に清掃する部屋の数は、シングルで10〜12部屋ほど。その業務はハードでありながら、従事されている方の高齢化が進んでいるといいます。地方のリゾート地にあるホテルでは若い人材の採用も難しく、8割が60歳以上というケースもあるそうです。
「廊下の長さが1フロア100メートルくらいあるホテルもあります。メイドさんたちの移動を少なくすることで、働く負担を軽くしたいという狙いもありました」
清掃スタッフの方は、リネンなど重いものを運ぶことで、腱鞘炎になることも多いそう。「ワゴンがあれば重いものは乗せて運べるようになりますので、防げるようになると思います」
このような小型の個別ワゴンを使う客室清掃の取り組みは、同社以外のホテルでも、徐々に取り組みが広がっているようです。