10年以上にわたり、全国の自治体指定ゴミ袋をこつこつ集め続けている奇特な男がいる。初宿成彦(しやけ・しげひこ)、50歳。本業は、大阪市立自然史博物館の主任学芸員である。フィールドワークで遠征した際、収集した植物や化石などを一時的に保管するために地元自治体のゴミ袋を購入するうち、「町を訪れた記念に」と2007年頃から意識して残しておくようになったという。北は北海道から南は沖縄まで、その数は現在180以上。しかも独自の基準を設けてひとつずつ点数までつけているのだ。これまでの成果を聞かせていただいた。
ゴミ袋収集と昆虫の採集は同じ
「自治体によってデザインや形が違うので、やっぱり収集癖がくすぐられるんですよね」
そう話す初宿さんの専門は昆虫分類学(甲虫類)。研究者として、何かがある程度の数になると、どうしても分類せずにはいられない性分なのだ。ゴミ袋を入手した自治体は、Googleマップ上でピンを立ててちゃんと一目でわかるようにもしてある。「基本的には昆虫を採集、分類するのと同じ感覚です」
https://www.google.com/maps/d/viewer?mid=1uERuqfyMjJpqMlO6ikLHvhXMQOc&usp=sharing
さらに、「ただ集めているだけでは張り合いがない」ということで始めたのが採点。「芸術」(イラストの有無)/「国際」(表記の多言語対応度)/「やさしさ」(持ち手の有無)/「袋の透明度」/「責任感」(町名や氏名を書く欄の有無)…の計5ポイント(各20点)で勝手に点数をつけている。
「まず大前提として、点数が高ければ良いゴミ袋だというわけではありません」と初宿さん。「名前を書くことや袋の透明度の是非は、プライバシーの観点から人によって受け止め方も違うでしょう。だから点数については、本当に気にしないでいただきたい」
それでもあえて聞きたい。初宿さんを唸らせた最高のゴミ袋を…!
「岡山県真庭市と宮城県の仙南地域広域行政事務組合です。いずれも100点満点で80点と高得点でした」
「逆に最低は和歌山県御坊市の0点。とはいえ、これは私の独断と偏見で出した点数ですので、ゴミ袋の良し悪しを評価しているわけではありません。そのことだけは何度でも言わせていただきたい!」。もちろん御坊市はとても素晴らしいところです。
余談だが、180余りのゴミ袋を採点してきた結果、平均点は「40点くらい」とのこと。だから何?と言われたところで、初宿さんも私も「別に」と答えるしかないのだが…。
自治体指定ゴミ袋に地域性はない?
ところで、各地のゴミ袋を集めて分類し続けた結果、地域ごとの特徴や傾向のようなものが見えてきたりということはあるのだろうか。
「ないですね(即答)」
「特徴、傾向、特にないと思います。五所川原立佞武多(ごしょがわらたちねぷた)で知られる青森県五所川原市など、たまに味のあるイラストが確認できるくらいで、基本的には全国ほぼ似たようなものじゃないですかね」
そ、そこをなんとか!
「強いて言うなら、北海道は黄色いゴミ袋が多かった印象があります。カラス対策のほか、白い雪の中でも目立つからでしょうか」
もう一声!
「あ、そういえば小樽市のゴミ袋にはロシア語表記がありました。私の観測範囲では、小樽市でしか見たことがないように思います」
それそれ、そういうやつやんか。
念のため小樽市の担当課に確認してみたところ、港町である同市は中古車などの輸出入業が盛んで、ロシア出身者も多く暮らしているという。また中国や韓国からの移住者も増えているため、ゴミ袋には日本語とロシア語、さらには英語、中国語、韓国語の計5カ国語が並んでいる。