シーズンオフには4回転ジャンプの練習にも取り組んだが、今は3回転ジャンプ全般の安定感を上げることに注力している。細田のジャンプは、高く跳び上がりしっかり空中で回りきって降りてくる、男子のような迫力が持ち味で、「参考にするのは男子選手が多いですね」という。憧れは、同じリンクで練習していて、最近はアイスダンス転向で世間を騒がせた髙橋大輔(33)=関大KFSC=。技術面はもちろん、「全てにおいて尊敬してます」と目を輝かせる。
「オフからオンにパッと切り替わる瞬間が本当にすごいんです。さっきまで普通にしゃべってたのに、氷に乗ったらガラッと変わるんですよね。あの集中力はすごいなあって思います。練習時間が一緒のことも多いんですが、自分の練習をしないといけないのに見とれてしまって、あかんあかん、って(笑)。大ちゃん(髙橋)がいると頑張ろうと思えますし、見ているだけでワクワクするんです。スケートを楽しんで練習していた昔の自分が蘇ってくる感じがします」
関大のリンクには髙橋大輔の他にも、社会人スケーターとして3年連続で全日本出場を果たした山田耕新(28)がいる。仕事をしながらスケートを続ける年長者2人を「大変そうやし忙しそうやなって思いますけど、それでもちゃんとできてる。尊敬します」。
24歳の細田もフィギュアスケート界ではベテラン扱い。男子シングルでは羽生結弦、田中刑事ら同い年がいるので毎年全日本で会えるのを楽しみにしている。しかし、昨年の女子シングル全日本出場者の中では細田が一番年上。大学卒業後の進路について聞かれることも増えてきた。
「私も、どうなってるか気になってるんですよね(笑)。まだ何も決めてないですし、とりあえず今シーズンっていう気持ちで練習しているので、本当に先のことはまだ自分でもちょっとわからないです。そもそも、卒業できるかな…?どうしてもスケートのことに頭がいってしまって、勉強中もすぐにスケートの動画とか見ちゃうから(笑)」
自分では「これで引退」と宣言して試合に出るタイプではないと感じている。「緊張するじゃないですか、これが最後って思うと」というのが理由だ。12月の全日本選手権後に何を思うか、自分でも楽しみだと話す細田だが、まずは目の前の近畿選手権だけに集中する。
「近畿選手権も西日本選手権もですけど、全日本を考えて試合をすると良くないことが多いんです。全日本に出たいのはもちろんなんですけど、まずはやるべきことをやらないと全日本なんて口に出せない(笑)。まずは近畿。近畿を突破したら西日本。それが終わってからやっと全日本が見えてくるので」
女子シングルは選手数が多く、全日本出場は狭き門。予選は全国6ブロックに分かれ、近畿の出場者は例年30名ほど。上位10名が11月に行われる西日本選手権へ進み、さらに西日本選手権に進出した26名から約半数が全日本出場を勝ち取る。厳しい争いだが「緊張するけど楽しい。試合は何が起こるかわからないから」と細田は言う。
「1試合1試合、真剣に命がけ。いつも近畿が終わったら1週間は動けない(笑)。ああやっと終わった、ぜぇはぁって肩で息をする感じ。1週間それに浸ってから『ああ、もう西日本が来る!』って切り替えるんです。
フィギュアって、たった2分半と4分のために1年かけて練習して、そこに全力を出さなきゃいけない。本当に難しい競技ですよね。私はもう若い子たちと同じように練習できないし、疲れが残るので調整も難しいです。でも、一人のスケート好きとして楽しんで試合に出て、毎試合笑顔で終わりたい。近畿も、西日本も、全日本も!」
選手生活がどこまで続くのか自分でも分からない。だが、スケートの楽しさも難しさも丸ごと愛する細田なら、いつか現役を離れてもスケートと関わり続けてくれるのではないだろうか。そんな期待もしながら、笑顔でリンクに立つ姿を1試合でも多く見守っていきたい。