平昌五輪代表が直面したカップル解消、引き際…フィギュアスケーターの現実とは

藤井 七菜 藤井 七菜

 フィギュアスケート・アイスダンスの2018年平昌オリンピック代表・村元哉中(かな、26)が氷の上に戻ってきた。昨年8月、クリス・リードとのカップル解散を発表した村元が久しぶりに氷の上に姿を見せたのは、今年7月に横浜アリーナで行われた高橋大輔(32)主演のアイスショー『氷艶 hyoen2019 -月光かりの如く-』だった。「もし氷艶への出演がなかったら、現役はもういいかなって思ってたかも。でも今は競技に戻りたい気持ちがあります」という村元に、解散から『氷艶』の舞台裏、パートナー探しなどを聞いた。

  村元に『氷艶』の関係者から連絡があったのは、タイのリンクで練習していた3月のこと。

 「本当にどうしようって悩んでいた時期でした」。

 昨年のペア解散後、村元は兵庫・神戸市の自宅に戻って氷から離れた時間を過ごしていた。昨年12月には、大阪で行われた全日本フィギュアスケート選手権を会場で観戦。かつて関西大学で一緒に練習していた高橋大輔の現役復帰を応援するためだったが、アイスダンスの試合も見ているうちに「なんで私、ここにいないんだろうと思ってしまって」と、競技に復帰したい自分に気付いたという。

 復帰に向けて年明け以降に少しずつトレーニングを始め、今年2月にはロサンゼルスへ約1カ月のダンス留学。いったん帰国し、タイでコーチを務める姉・小月さんのいるリンクで氷上練習を始めてすぐに『氷艶』のスタッフから「メンバーの1人として滑ってみませんか?」と声がかかった。

 「どんな形でも氷に戻れるのであればと、すぐに『ぜひお願いします!』って返事しました。連絡をいただいたのがちょうど私の誕生日(3月3日)で、すごい嬉しかったのを覚えています。それ以降は『氷艶』に向けて本格的に体づくりをしたり、タイのリンクで氷にできるだけ乗ったり、という毎日。気がつけば7月になって、『氷艶』の合宿が始まりました」

  『氷艶』はフィギュアスケートと芸術の融合に挑むアイスショー。本番直前の約1カ月間、新潟のアイスリンクで合宿練習が行われた。通常のアイスショーでは3日前くらいに会場入りし、音合わせなどをするのが一般的で、これだけ日程を長くとる練習は異例だ。

 「現地に行くとまず台本を渡されて、その時点で『これは普通のアイスショーとは全然違う、氷上のエンターテインメントだ!』って思いました。練習初日には、演出の宮本亜門さんが『スケーターも私は役者です、役者も私はスケートできます、と言えるくらいまで練習をしてほしい。それくらい自信があれば絶対に良い化学反応が起こる』という話をされて、『じゃあ私も女優にならないと』って(笑)。今までのアイスショーとは取り組み方をちょっと変えないといけないなと感じました」

 キャストはスケーターだけでなく役者や歌手、アクロバットのパフォーマーなど、バラエティ豊かな顔ぶれ。出演者だけでも約40人という大所帯の座組だが、ジャンルや年齢の枠を超えて全員の仲が深まり、明るく楽しい雰囲気の合宿になった。

 「練習は朝早くからあって体もきつかったんですけど、毎朝みんなに会えることが楽しくて。特に大ちゃん(高橋大輔)は主役だったので、すごく練習がきつかったと思うんですよ。場面ごとに練習するので出てない場面は休めるんですが、大ちゃんは基本ずっと出てるので朝から夜までほとんど休憩なく練習していました。それでも疲れた感じを全く出さないですし、いつも明るく笑顔だったんですごいなって。大ちゃんがいたからこそ、雰囲気が良く和やかだったのかなと思います」

 村元にとっては、憧れのスケーター達の演技や練習をじっくりと見ることができたのも大きかった。通常、同じアイスショーに出演していても自分の練習や準備のために他のスケーターの演技を見られないことがほとんど。今回は合宿という長い期間でたくさんの得るものがあった。中でも2006年トリノオリンピックの銀メダリスト、ステファン・ランビエル(スイス)の表現力溢れるスケーティングは圧巻だったという。

 「やっぱり間近で見るあのエッジ使いはすごかったです。ステファンとユリア(ユリア・リプニツカヤ=ロシア)が組んで滑る練習では、1人で滑るよりももっとストーリーが見えてきたり、いろんなものを感じることができて、やっぱりアイスダンスっていいな、って思いました。ユリアもアイスダンス大好きって言っていて、すごい喜んでました」

 毎日の練習では振付けや殺陣のほか、スケーターにとっては慣れない発声の練習も。中でも高橋大輔はセリフも生歌も多かったが、「初日と本番では全然違う!こんなに変わるんだってくらい違いました」と驚くほどの成長ぶりだったという。

  試合であまり緊張しないという村元も、本番当日は久しぶりに人前で滑ることに緊張した。

 「アンサンブルスケーターはみんな同じかつら、同じ衣装を着けていたので、お客さんにはどれが私か分からなかったとは思うんですけど(笑)。衣装の早着替えもあったんでバックステージはみんな走って着替えて、と大騒ぎでした。メイクも、女官の時は赤リップつけて、平民のときは取って、とか。マイクはつけている人とつけてない人がいますが、みんな声を出して歌っています。あとは、例えば光源氏を4人の女の子で追いかけるシーンでは『待ってー、キャー』とか別撮りの声が流れるんですけど、地声でもセリフを言ってました」

 村元の約1年ぶりの演技に、ファンから『氷の上で見れて嬉しかったです』という手紙やSNSのメッセージがたくさん届いた。カーテンコールでの『頑張ってね』という声にも「泣きそうになってました。すごい嬉しかったです。こんなに応援してくれてる人がいっぱいいるんだと思って」と感謝する。

 合宿から本番までの約1カ月を、「今までの人生の中でもかなり濃かった期間かもしれない」と村元は振り返る。

 「人とのつながりが大事だなと思いました。役者さんや歌手の人とも初めて接したので、いろんなものを吸収できましたし、舞台演劇の裏側を知れたのはすごく勉強になりました。今まで本当にスケートしか関わってなかったので、違う世界を見たって感じです。いつか、大ちゃんみたいな人が先頭に立ったカンパニーができて、いろんなストーリー性のあるアイスショーができたらいいなって思います。いろいろ大変だとは思いますけど、踊って表現できるスケーターは日本にもたくさんいるので、すごい面白いものができそうだなって」

 

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