紀平梨花、宮原知子らトップ選手が「ロバさん」と慕う、スケート靴の名物職人がいる。大阪・梅田や難波などに店舗を構えるスケート用品専門店「小杉スケート」の田山裕士さん(59)。スケート靴のメンテナンスをして40年のスペシャリストだ。
「つい昨日も、(紀平)梨花が来とったよ。一昨日はさっとん(宮原知子の愛称)がエッジの研磨に来たね」
エッジ研磨、ブレード取り付けや修理などスケート靴全般に関する調整やアドバイスを行っている田山さん。一般的にスケート靴の手入れと言えばエッジを研ぐことをイメージするかもしれないが、田山さんは「研磨は機械が半分やってくれるからそんなに難しくない。ブレードの位置調整の方がずっと手間がかかる」と話す。
スケート靴は、革などでできた靴と金属のブレードを別々で購入し、靴底の裏にビスで留めて使用する。そのセッティングの際に「スケート靴と人の体を一体化させる」ように繊細な調整をするのだと言う。
「同じメーカーの同じ靴でも個体差が結構あって、奇麗なのもあるし不細工なのもある。選手の足の形状もO脚だったりX脚だったり、左右で違う人ももちろんいる。それぞれの体に合うように、ブレード位置を親指側に寄せたり小指側に寄せたり、角度を変えたりという細かな調節をして、しっかりと滑れる位置に付ける。それが一番難しいところやね」
田山さんの調整技術を求めて「小杉スケート」を訪ねてくるスケーターは数多い。五輪選手も含め日の丸を背負って戦う選手を何十人と支えてきた。20日から始まる世界フィギュア(さいたまスーパーアリーナ)では、男女シングル出場者の6人中4人(坂本花織、紀平梨花、宮原知子、田中刑事)が「小杉スケート」を利用している。
ブレード位置の調整と一言で言っても、スケーターによって感覚も好みもバラバラ。それぞれの特徴や好みに合わせて決めていく。通常は最初のセッティングから2週間くらいで足と靴がマッチしてくるそうだが、担当した歴代スケーターの中でも「最後の最後、試合に出発する瞬間まで調整したいってこだわるのは、梨花と(高橋)大輔くらいやな」という。