日仏合作映画「真実」公開迫る!この際だから是枝裕和監督にいろいろ聞いてみよう

黒川 裕生 黒川 裕生

「万引き家族」で昨年、カンヌ国際映画祭の最高賞を受賞した是枝裕和監督の新作「真実」が、10月11日から全国で公開される。フランスを代表する大女優カトリーヌ・ドヌーヴやジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークらをキャストに迎え、パリで10週間かけて撮影された日仏合作映画。今年のヴェネチア国際映画祭で、日本人監督としては初めてオープニング作品に選ばれたこのユニークな新作について、是枝監督に話を聞いた。話題は「真実」撮影時のエピソードにとどまらず、日本とフランスの労働環境の違いや文化としての映画のあり方、さらには昨年「万引き家族」を巡って起きたバッシングのことなどについてもじっくりと語ってくれた。ほぼノーカット、ちょっと長いです。

―日本人の監督が、フランスで、フランスの俳優やスタッフらと制作する、というのはあまり例のないことだと思いますが、このやり方だからできたこと、逆にできなかったことはありますか?

「日本ではできたけど、フランスではできなかったことは『土日返上』。フランスの現場は週休2日、1日8時間厳守で、土日撮影とかあり得ないです」

―是枝監督が日本で撮るときは、そういう体制ではない?

「日本でそんな余裕がある現場なんて、経験したことない(笑)。週1で休みがあれば、本当に恵まれてると思うくらい。さすがに最近は『6時集合の30時終了』みたいなことはなくなりましたけど。もう夜中、僕がもたないから。だけど日本の多くの現場は、おそらく6時集合で、深夜0時までに終われば『今日はてっぺん回らなくてよかったな』という感じでしょうね」

―フランスでそれができている理由は?

「組合が強いから。それは俳優もスタッフも。みんな『私たちが闘って勝ち取ったんだ』と言ってましたね。仮に土曜に働くとギャランティ200%で、日曜に働いたら300%なんです。つまり『やるな』ということ。健全ですよね」

―健全だと感じたんですね。

「最初は『せっかくノッてきたのに20時で終わるなんて。もうちょっと撮ろうよ』と思いましたよ。日本だと『よし、ここから晩ごはん食ってもうひと勝負!』という感覚だったけど、そういうのが一切ないわけですから。金曜の撮影がすごく良かったのに、土日が空いてしまうと、月曜に同じシーンを撮っても繋がらないのではないかという不安もありました」

「でも途中から、そういうものだと思えるようになった。ゆっくり休んで、土曜に編集して、日曜には明日から撮る1週間分の脚本を直して…というペースができてしまうと、立ち止まって考える時間もあるし、体調崩さないし、結果的に良かったですよ」

―日本でもできたらいいなと思われましたか?

「やるべきだと思います。今回、撮影部のチーフの女性は3人の子供を育てるシングルマザーだったのですが、体制がこのようにしっかりしていると、毎日家に帰って子供にごはんをあげられる。それで土日も休みだし。こういう働き方をしている女性がたくさんいた。日本だと、そんな事情を抱えている場合、どうしても『現場は難しい』とならざるを得ない。そこは圧倒的に向こうの方がいいと思った」

―では今後、日本の現場でも実践を?

「個人的にはやろうと思っているし、広まった方がいいと思っている。ただ、そのためには予算が増えないと無理だし、意識改革もどこまで進むかですよね。組合がないからさ、日本は。労働環境、今、本当にひどいですから」

「とはいえ、僕もワーカホリックなところがあるから、フランスの現場を手放しで良いとは言えない気持ちも実はちょっとある。日本の映画の現場は、クランクインの前にみんなでお祓いをして、『さあ祭りが始まるぞ』って盛り上がって、3食、もしくは4食みんなで食べて、事務所の床に寝袋で寝て…っていうさ。そういう文化祭的な感覚で映画が作られていく、良く言えば“一体感”があるじゃないですか。僕自身はそういうノリはそんなに好きではないけど、その面白さというのは間違いなくあるわけで」

「逆に、フランスにはそういうのは全くない。映画がもっと日常的。撮影現場もそうだし、映画を見に行くということもそう。それは成熟度の違いだと思う。一長一短あるけど、映画を『仕事』として考えるなら、絶対にフランスの方がいい。『働き方改革』は、あの国ではもう終わっているんです」

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