日仏合作映画「真実」公開迫る!この際だから是枝裕和監督にいろいろ聞いてみよう

黒川 裕生 黒川 裕生

―話を「真実」に戻します。もともと是枝監督の手元にあった未完成の戯曲を改訂してできた作品だそうですが、主演にカトリーヌ・ドヌーヴを迎えたことで、決定的に変わったことはありますか?

「最初に書いていた15年、16年くらい前は、その国の映画史を背負えるような大女優がキャリアの晩年を迎えて…という設定だった。正直に言うと、日本ではそれをリアルにできる人が思いつかなかった。でもフランスだったら、ドヌーヴだったらできるぞ、と。それでドヌーヴの出演が決まって、リライトを始めた。だから、ドヌーヴありきの脚本」

―ドヌーヴは「真実」のキャラクターそのまんまの人?

「そういう部分もある。彼女は強く役づくりをするタイプではない。現場にフラッと来て、サッと帰ってくからね。劇中で彼女が言っているように、『役者は存在感』を地で行く人です」

―彼女の軽やかさや明るさが、作品全体の雰囲気を決定づけているように感じられます。

「それに関しては、思っていた以上だった。ドヌーヴは子供みたいなんですよ。全然じっとしていないし、すぐ飽きちゃう。飽きちゃうというか、この仕事を60年もやっているから、よくできたかどうかが監督の僕より先にわかるんです。それから、早く帰りたい日はいつもより台詞の入りが早い(笑)。彼女は台詞を覚えて来ないけど、多分、家で台本を開くのが『美学』として受け入れ難いんだと思う。台本に線を引くこともないし、『役づくりって何?』みたいな感じ。既にベストなテイクがあっても、何度もトライしたがるジュリエット・ビノシュとは正反対のタイプでした」

「でも決していい加減なわけではなくて、役者としての動体視力が、圧倒的に優れている。僕はすごくやりやすかったですよ。台本を完璧に覚えてきて現場で動かない人よりは、ずっとやりやすい。相性は良かったんじゃないかな」

―現場では日本語で?

「そう、日本語しかできないから。『よーい、ハイ』って」

―外国語で演じられているのを見て、良いかどうかはわかるものですか?

「わかりましたね。オーディションで、自分の書いた台詞を言ってもらいながら、通訳を介して『もう少しやわらかく』などと指示を出せば、ちゃんと違う言い方で跳ね返ってくる。そういう経験を通じて、『あ、通じるな』と思った。例えば、言葉のわからない映画を見ても、『リズムがいい』『掛け合いがうまくいっていない』といったことは、なんとなくわかりますよね。台詞のニュアンスに関して言うなら、フランス語はわからないけど、かなり的確に掴めていたと思います。そんなにズレてないはず」

―「母と娘」という関係性だけでなく、「演じること」についての物語でもあると感じました。終盤には、母、娘、孫の3人がそれぞれ「演技」を交わす、「真実」というタイトルに込められた意味が浮かび上がる印象的なやりとりがあります。

「娘(ビノシュ)が自分の娘を使って母(ドヌーヴ)に向けて言わせた『台詞』は、もしかしたら彼女が子供の頃に母に言いたかった“本心”かもしれない。『演じることは嘘ではなく、むしろ真実に属するもの』というビノシュの演技哲学を聞かせてもらったことも、本作の出発点になっています」

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