穏やかな死を迎えるための手助けをする、“看取り士”という仕事。9月13日公開の映画『みとりし』では、看取り士という仕事を通して死生観を変化させる主人公を、俳優の榎木孝明(63)が演じている。
主演のみならず、企画にも名を連ねている榎木は「今の日本においてタイムリーな物語であり、映画公開後には大きな反響を生む予感がする」と高齢化問題を抱える日本に一石を投じる作品であると自負している。
看取り士の第一人者である、柴田久美子氏による著作『私は、看取り士。わがままな最期を支えます。』が原案。看取り士とは、本人が希望する場所で自然に幸せな最期を迎えられるように心のサポートをしていく存在だという。榎木はその活動内容に感銘を受けた。
「高齢化に伴い、近年はエンディングノートや終活など自分自身の死を積極的に考えるような言葉が新しく生まれています。私自身も60歳を過ぎて、死というものを実感する機会が増えました」と心境の変化を口にする。
肉体面の衰えが現実を突き付けてくる。「殺陣の立ち回りも頭ではシミレーションできるけれど、いざ実際に動くとなると果たしてどこまでできるのか。この歳になり、体がいうことを聞かないという実感があります。これは若い頃には考えられなかったこと。しかし私だけの話ではなく、人間誰しもが通る道です。そこを通過した先に死がある」と自然の摂理を痛感中だ。
だが、これまで直視することを避けていた「死」を見つめてみると、炙り出されるものがあった。それは「生」に対する希望だ。「年齢に限らず、死とはいつ訪れてもおかしくないもの。誰も明日死ぬとは考えていないけれど、死ぬときは死ぬ。だからこそ、今を大切に生きなければいけない。必ずや訪れる死という大前提があるんだと考えて生きてみると、平凡な日々にも説得力が生れるし、今がもっと大事になる」と力説。主演映画『みとりし』にも、死を通して放たれる命のエネルギーを込めたつもりだ。
榎木が演じた主人公・柴久生は、交通事故で娘を亡くしたことから、生きる意味を見失い自殺しようとするサラリーマン。ひょんなことから脱サラして看取り士としての活動を始める。かくいう榎木自身も本作に影響を受けて、看取り士の資格試験を受ける予定だ。
『みとりし』は高齢者の死を描いているが、年齢に関係なく様々な人の心に届けたいという思いがある。「中でも自殺しようと悩んでいる人にこそ観てほしい。自殺したいと思う人は周りが見えなくなってしまい、衝動的に死を選んでしまう。でも決して本気で死について考えているわけではないと思う。今の時代は、死とは何か?生きるとは何か?を誰も教えてくれない。この映画がそれを考えるいいきっかけになれば」と願っている。