火炎に包まれた力強い猛者や、ピンクの衣装に身を包む、けなげな女性-。まるでアニメやゲームのキャラクターのような姿の正体は、家紋だった。日本で古来伝わる家紋を、擬人化したイラストで紹介したことで話題を呼んだ本「家紋無双」。そのキャラたちが、秋の京都で初開催される「家紋フェス」に集結する。家紋の新たな可能性を探る企画展のほか、歴史や図柄に込められた先人の思いを知る企画も盛りだくさんの1日。ここはあえてベタに言おう。「家紋フェス」にカモン!
「正直に言えば、キャラ化にはめちゃめちゃ抵抗がありました」。「家紋無双」(知楽社)の著者で家紋研究家の森本勇矢さん(42)=京都市上京区=は、出版社から企画を持ちかけられた時の心境を振り返る。家紋には子孫繁栄や武運長久など、祖先のさまざまな思いが詰まっている。「家紋を大切に守ってきた家から『言語道断』と反発があるだろうと思いました」
一方で、家紋になじみが薄い若者にその素晴らしさをどう伝えればよいか、考えあぐねていたのも事実だった。企画した出版社「知楽社」(奈良県)が20~30代の100人を対象に調査したところ、「自分の家紋を知っている」のはわずか7%。8割が「知らない」という結果だった。
「若者にもっと受け入れられるには『鳥獣戯画』や『百鬼夜行絵巻』から今に至るまで用いられ続ける表現手法の擬人化が効果的かもしれない」。森本さんは企画に乗ることを決めた。
82種類の家紋を取り上げた。「十大紋」「自然紋」「植物紋」「動物紋」など6章立てで、約5万種から特に使用している家が多いものを選んだ。キャラクターは、特性が分かりやすいように家紋の形を意識した衣装や容姿にしたイメージを森本さんがイラストレーターに伝え、完成させた。
例えば祇園社(八坂神社)の祭神とされる牛頭天王を表す「窠(か)紋・木瓜(もっこう)紋」は炎に包まれた力強い男性像を描き、「櫻(さくら)紋」はピンクの髪と衣装の、はかなげな女性像に仕上げた。キャラクターごとに代表紋と派生紋の意匠も紹介し、森本さんの解説文を載せた。
昨年夏に発売するとSNSなどで話題を呼び、1カ月で重版が決まった。「世界でも高く評価されている日本の家紋文化を見つめ直してもらういい機会になった」と手応えを得た。