交通事故で視覚を失い、嗅覚が衰えてもなお前向きに生きる元保護犬・咲夢(サム)

岡部 充代 岡部 充代

 一見、障害があるとは分かりません。でも、咲夢(サム)君は目が見えず、鼻も耳も機能が低下しています。交通事故の後遺症です。

 元保護犬の咲夢君(当時の名前はサブロー君)が事故に遭ったのは18年3月。優しい里親さんと出会ったばかりの頃でした。運び込まれた動物病院で、飛び出した左目の眼球を元の位置に戻す緊急手術が行われ、無事に成功しましたが、医師からは「脳のダメージが大きく、記憶喪失、認知症、感覚機能低下などの可能性がある。また、脳にできた血腫の影響が今後どう出るか分からない。見通しは明るくない」と言われてしまいます。

  結局、そのときの譲渡は成立せず、サブロー君は「犬の合宿所in高槻」(大阪で犬の保護・譲渡活動を行っている市民ボランティア)に戻ってきました。老犬などの介護経験豊富な代表の伊藤順子さんが自宅に「サブロールーム」を作りお世話をしましたが、かなり大変だったようです。

「熟睡していると思っていたら突然、起き上がって歩きだし、どこかにぶつかって立ち止まる。向きを変えて歩いては、また立ち止まる。しばらくすると疲れて寝る。徘徊する老犬と同じでした。耳は少しだけ聞えているようでしたが、目は見えていないし、嗅覚も味覚も恐らく働いていなかったので、食べ物とそれ以外の区別がつかず、口に触れたものを何でも食べようとするのにも困りましたね」(伊藤さん)

 事故の翌月には左前足の骨折も発覚。原因は不明でしたが、痛みの感覚も鈍っていたのでしょう。サブロー君が痛がる素振りを見せることはなかったそうです。

 

 伊藤さん宅には他にも犬や猫がおり、また、新たに引き取る犬の搬送や譲渡の事務手続きなどもあるため、四六時中、サブロー君に付き添ってあげるわけにいきません。そこで、できれば新しい預かりボランティアさんを見つけたいと思っていました。

 18年6月、里親募集会で1匹の犬に人気が集中します。申込書に書かれた内容などから候補を2家族に絞り、山本勝さん・泰子さん夫妻に連絡したところ、意外な言葉が返ってきました。

「あの子は人気だったんですね。じゃあ、ウチには残ってしまいそうな、もっと大変な子をお願いします」

 8年間一緒に暮らしたミニチュアピンシャーのこもちゃんを亡くしたばかりだった山本夫妻。さみしく思っていた泰子さんが、こもちゃんに似ている犬を見つけて申し込んだのですが、他にも希望者がいると聞き、上記の申し出をしたのです。

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