里親探しにつなぐ「預かりボランティア」…保護犬に「ヒトの優しさ」伝え続ける70代女性

岡部 充代 岡部 充代

 「預かりボランティア」という言葉を聞いたことはありますか? 犬や猫の保護活動を行う団体または個人から、一時的に保護犬、保護猫を預かり、自宅でお世話をするボランティアのことです。提供するのは“食”“住”だけではありません。ヒトの優しさ、ヒトと暮らすことの素晴らしさを伝えるのも大切な役目。SNSを通じて預かっている子の魅力を発信したり、譲渡会に同行して里親探しに協力することもあります。すべては、保護犬、保護猫が新しい家族と出会うためのお手伝いです。

 そんな預かりボランティアに“生きがい”を感じているのは、大阪・高槻市の岩井みや子さん(72歳・仮名)。子供のころから動物が好きで、犬、猫、ウサギ、ニワトリ、ヤギなどさまざまな動物の飼育経験があり、今は15歳になるワイアー・フォックス・テリアのキャンディーちゃんと暮らしています。近所の人が犬の保護活動をしていると知り、役に立ちたいと考えましたが、自身の年齢で若い犬を迎えるのは無理がある。「年齢が行った子はいませんか?」そう尋ねたとき、勧められたのが預かりボランティアでした。

「私の年齢でできるだろうかと不安でしたが、大丈夫と言っていただき、自分の経験を生かして犬を救うことができるのならと、お引き受けすることにしました」(岩井さん)

 これまでに6頭の保護犬を預かってきた岩井さん。どの子にも思い入れがありますが、特に印象深いのは、鹿児島・徳之島からやって来たすみれちゃんです。島の保健所に収容され、人懐っこい性格で職員にもかわいがられていたそうですが、脳に障害があり、歩行にふらつきが見られました。ただでさえ島内の譲渡は難しいのに、障害がある子のハードルはさらに上がります。そこで、大阪の市民ボランティア「犬の合宿所in高槻」が引き取り、関西で里親探しをすることになりました。預かりボランティアに手を挙げてくれた岩井さんの存在がなければ、実現しなかったことです。

 

 岩井さんの家に来た当初のすみれちゃんは、頭を振りながら「千鳥足」のように歩いていたそうです。でも、そんな歩き方を、岩井さんは「個性」ととらえていました。「特別だとは思いませんでした。お留守番させても何もイタズラしないし、家の中ではちゃんとシートでオシッコする。手のかからない子でしたよ」。

 結局、1年9カ月もの間、岩井さんの家で暮らしたすみれちゃんは、広い庭を走り回ったり、たくさんお散歩に連れて行ってもらったおかげで、足腰に筋肉がついて、自分の体をコントロールできるようになりました。フローリングの床も滑らず歩けるようになり、「オスワリ」の姿勢でもふらつくことがなくなったそうです。「オテ」までできるようになった(つまり、3本足で体を支えられるようになった!)と言いますから、これはもう、岩井さんの愛情のたまものです。

「とにかくかわいくて、私があと10歳若ければ、ずっと一緒にいたいと思いました。でも、自分の年齢を考えたら、若いすみれちゃんを引き取ることはできないですよね」(岩井さん)

 2年近くも同じ預かりボランティアのもとにいるのは珍しいことで、「ここが自分の家だと勘違してしまうとよくない」との配慮から、他のボランティア宅に“お引っ越し”したすみれちゃん。今では新しい家族に迎えられ、幸せに暮らしています。

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