18日、京都アニメーションのスタジオ(京都市)で起きた放火殺人事件。これ以外にも昨今、面識のない者に対して突如犯行を起こす動機の見えにくい凶悪事件を見聞きすることは少なくありません。常識的な理解が困難に見える犯罪であっても、手掛かりを分析し、行為者の心の深層に向かって探求を重ねていくと、真の犯行動機が見えてきます。
加害者の話を聞いていくと、本人が意識しているか、していないかに関わらず、何らかのサインを発しており、不可解に思える事件も未然に防ぐことができたのではないかと悲しい気持ちにさせられます。こうしたサインを放任し、対策のないまま無関心になってしまうことが次の暴挙につながってしまうのかもしれません。
身近でこうした予兆に気づいたらどのような予防が可能でしょうか。まずは、一人一人が自分に何ができるのかを考え、地域や社会全体で議論を続け、風化させないことが次の犯罪を予防する一歩となります。
また、こうした加害者の心理面や行動面にも予防の糸口があります。私たちは日々、様々な人や情報と接しながら考え方を変化させています。しかし、何らかの要因で家庭や地域とのつながりが減少してくると、考え方は独自の情報源を頼るようになります。格好や態度を含め、人からどのように見られているかという意識は低くなり、一方的な考え方に陥る可能性が生まれます。
さらに、加害者の心理教育では、「物に当たって壊した」「自分で壁を殴って怪我をした」という内容がしばしば語られます。現状が打開できなければ対象の破壊を実行し、自分や他人に関わらず、物や身体を尊重する意識が希薄で、被害の程度に思いが至らないといった特徴が見られることもあります。
しかし一方では、自分が大切にしている人や活動に対しては強い思い入れを持っており、これを手掛かりにして再発防止が行えることもあります。ある無差別事件を起こした加害者は「言い争いになってイライラしすぎて、どうなってもいいと思ったけど、カウンセリングで話したら落ち着きました」と、再犯の実行を思い止まりました。
衝動的な加害者は自己の安全の保証や将来設計よりも、目の前の大事な何かを解決させることを優先していることもあります。憤りや悲しみの感情を吐露する際は、何かを変えたいという叫びでもあり、ここに焦点付けて話を整理すると、次第に落ち着いていきます。
こうした訴えに対して、加害者の家族は「宇宙人のようで、どう理解すればいいのかわからない」と当惑していることも珍しくはありません。何に傷つき、何に憤っているのか、まずは耳を傾け、孤立させずに話し相手を持つことが大切です。
さらに、暴力行為のほとんどは、初めからその行動を起こすわけではなく、軽度な行為から重度なものへと段階的に深刻さが増していきます。複雑化した思考様式をしている場合は、単純な励ましや、叱責では思うような変化は見られません。
加害者への面接法としては「動機付け面接法」と呼ばれる方法があります。変化する準備性が伴っていない時期に指導や反省を求めるのではなく、開かれた態度で、「どうなりたいのか」、「どう変わっていきたいのか」という気持ちを引き出し、先行きのイメージが持てるように建設的な解決を目指します。
無意識下にある感情を整理し、自分自身と向き合う体験を積む中で、思考を制御する統制力が身に付いていきます。こうした対話は特別なものではなく、日常生活の中で観察される良好な人間関係の中にも見られるものです。
一人一人ができることを考え、身近でどのような対応が可能なのかを知ることで、未知の犯罪への不安も軽減します。社会全体で予防する意識を持つことが、悲しみを減らし、再犯防止の取り組みを進めていくことになるのではないでしょうか。