DaiGo発言から考える「犯罪者」の捉え方 加害者に聞いた「犯罪者」という呼ばれ方

中村 大輔 中村 大輔

メンタリストDaiGoのホームレスや生活保護利用者、犯罪者について社会的な排除を示唆する発言が批判を呼びました。個人の思想や言論が自由であったとしても、昨今の動画配信やSNSは影響力が強く、公共の福祉に反する可能性もあるため使い方には注意が必要です。

実情を知らずに知識で組み立てた発言であったと考えられますが、経験を積まないままこのような考えに至ってしまうことは珍しくはないのかもしれません。心理学者として刑事事件の加害者の研究をしている筆者は、発言の中に見られた「犯罪者」の捉え方に注目しました。

私たちが犯罪者について本質的に知る機会は、そう多くはありません。知らないということは不安を強め、未知なる存在として遠ざけがちです。筆者は刑事事件の加害者と日々対話を続けており、彼らにも今回の「犯罪者」という言葉の意味について尋ねてみました。

--犯罪者という呼び方について、どう思いますか?」

「正直ピンときません」

--あなたは犯罪者ということになりますが、どう思いますか?

「確かに犯罪者になりますね。言われるまで気づきませんでした。犯罪者と呼ばれることは分かりますが、(自分のことを)そう思っているかといえば違和感はあります」

Aさんは自分が犯罪者という呼ばれ方の中にいるという自覚がありませんでした。

筆者は以前、刑事事件の加害者10名のグループに対して質問を投げかけたことがあります。

「自分が犯罪をすると思うか」という問いに対しては誰も手を挙げなかったのに対して、「この集団の中で再犯をする人はいると思うか」という問いかけをしたところ、全員が挙手しました。これらのエピソードから、自分が犯罪者ということを認識はしていても実感はなく、犯罪者とは自分ではない誰かに対して当てはめていることが窺えます。

非行理論の古典的考え方にD.マッツァの「漂流理論」があります。非行少年はいつも違法な行為をしているわけではなく、普段は合法的な態度で生活をしており、強制や束縛を感じる中で、力に反発する形で問題行動を起こし、「自分が悪いわけではない」と自分の中の合理性を訴えます。

また、「人はなぜ犯罪をするのか」ではなく、「人はなぜ社会ルールに従っているのか」について研究したT.ハーシーは「社会的絆理論」を提唱しました。「人が犯罪をしないのは愛着や社会活動への投資などの社会的な絆にある」という考えで、社会的なつながりの重要性を主張しました。

いずれの理論も犯罪は自分とは無関係なのではなく、環境や状況次第では誰もがその可能性を秘めていると考えることができます。

令和2年版犯罪白書によると、矯正施設出所受刑者の再入所率は2年以内で16.1%、5年以内では 37.5%、10年以内では44.7%となっています。年々減少傾向にあるものの、課題は多く、平成28年には再犯防止推進法、平成29年には再犯防止推進計画が立てられ、5つの基本方針が立てられました。

その中には【「誰一人取り残さない」社会の実現に向け,国・地方公共団体・民間の緊密な連携協力を確保して再犯防止施策を総合的に推進】とあります。罪を犯した者を社会的に排除するのではなく、「誰一人取り残さない」社会の実現として各機関や職種の方々が日々努力を重ねています。

刑務所から出所してきたBさんは、外の空気を吸い、草花に感動し、「もう絶対に来たくない」と誓いましたが、再び犯罪に手を染めました。日々の生活を送る中で孤立を深めていったというBさんは「自分でもなぜしたのか分からない」と語りました。

また、刑務所から出所してきたCさんの母親は「再犯率が高いことは知っていましたが、もうやらないだろうと思っていた」と振り返ります。しかし、その後Cさんが再び事件を起こして刑務所に入ると、母親は「理解できない。考えることも疲れました」と語りました。

犯罪は、本人もその家族でさえも原因がつかめていないことも珍しくありません。「社会」という定義があるからこそ逸脱が起こり、犯罪が生まれるのは「社会」とのバランスの中だといえます。誰一人取り残さない社会のために、一人一人が他人事として考えずに、実情を知っていくことも大切です。

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