「万引きが止められない」おばあちゃんが増えている その心理と対応方法とは

中村 大輔 中村 大輔
毎年1万人以上の女性高齢者が万引きにより検挙されている(NazgulAngmar/stock.adobe.com)
毎年1万人以上の女性高齢者が万引きにより検挙されている(NazgulAngmar/stock.adobe.com)

万引き・窃盗は、時代や年齢問わずに幅広く見られる犯罪です。近年では、高齢化社会を反映するように高齢者の万引きも増加しています。

窃盗は高齢者の刑法検挙人員のうち過半数を占めており(交通事件を除く)、主要な手口である万引きにより検挙された高齢者の再犯者率も5割を超え、毎年1万人以上の女性高齢者が万引きにより検挙されています。(平成30年版犯罪白書より)

こうした背景事情として高齢者は「節約」「生活困窮」といった理由を挙げていますが、実際にはそうした事情は一部で、多くは年金を受給し、近親者との交流もあり、一定の生活水準は保たれています。

しかし、ある万引きを行った80代の高齢者女性は「老後には2000万円必要と知った。今は1500万円しかない」と、実際の生活状況とは乖離した経済的不安を語ります。

節約志向、質素な生活を心がけてきた人は、こうした不安に陥りやすいため、自分の年齢が何歳で、将来どれくらい必要なのか支出を計算し、不安を取り除くことが大切です。

一方、一度だけでなく何度も万引きを繰り返す高齢者もいます。根本的な動機の解明が為されないままに犯行を繰り返し、盗癖として理解され、実刑判決を受けることもあります。

なぜ重い罰を受け続けても繰り返すのでしょうか。筆者はこうした加害者らの分析と再犯防止の心理教育を行っています。耳を傾けていくと孤独な気持ちや焦りの気持ちが語られますが、最近では何度も窃盗を繰り返す病として「クレプトマニア(窃盗症)ではないか」と訪ねて来る方もいます。しかしクレプトマニアは自己の金銭的利得以外が要因とされているため、「節約」「生活困窮」の理由では、該当が難しくなります。

筆者がこれまでに見聞きした中でクレプトマニアと考えられたのは、部屋の中が盗品でごみのように溢れ、自分の性別とは無関係な衣服や同じ種類の本など、視界に物が入るとスイッチが入り、盗る衝動を抑えられずに強迫的に繰り返しているようなケースです。

万引き高齢者が述べるのは「沢山あったから、一つくらいなくなっても平気と思った」「レジに並ぶのが面倒だった」「もうあそこのお店には寄らないから取らない」と、万引きに対する抵抗感に乏しく、物が満ち溢れている箱のような捉え方をしており、お店で働く人やその家族の生活の資源から窃盗を行っているという認識をしていません。

また、万引きを行う高齢者の生活態度を観察してみると、道に咲いている木々を手折って部屋で飾って誰かを喜ばせようとしたり、無料配布されているものを何個も持ち帰り、身近な者に配ったり、誰かに承認されようとして、自身の持ち帰る行動に抵抗感がないことがうかがえます。

「万引きが止められない」ことだけに焦点を当て、罰を与えても、本人の認識や生活態度が変わらない限り、「誰も見ていなければ罰は与えられない」という考えが芽生えてしまいます。こうしたことを防ぐには罰や叱責だけでなく、身近な者が生活の中からサインに気づき、制御できるように対策をしておくことが大切です。

高齢者の詐欺被害や交通事故の増加にも現れていますが、高齢者の判断力や理解力といった認知能力は老化とともに低下していきます。自分一人では大丈夫と思っていても、主観的な判断で逸脱行為を行っていることもあります。

自分でコントロールできない場合は、専門機関での検査や心理教育を行いますが、家庭の中でも会話を増やし、「今日はどんな一日を過ごしていたか」を語り合い、遠方の場合は電話やメールで連絡を取り、場合によっては日記をつけるといった活動も取り入れながら、日々を充実させるように働きかけるとよいでしょう。

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