新しい時代が始まり、昭和という言葉の響きはまた少しなつかしさを増したように思います。戦前から戦後、その後の経済と社会情勢の大きな変化を経験した昭和の「団塊の世代」と呼ばれる年齢層集団の方は2025年にはすべて後期高齢者になります。新しい時代は、より一層の超高齢社会へと進んでいきますが、すべての世代の人が安心して暮らせる社会をつくるには、年を経ることへの理解の土壌を持つ必要があるのではないかと思います。
さて、高齢になるにつれ不安なこととして挙げられることとして「認知症」があります。2025年には65歳以上の人の5人に1人が認知症になると言われ、認知症になっても安心して住み慣れた地域での生活が継続できるよう、認知症に関する啓発活動が勧められています。例えば認知症サポーター養成講座が開かれたり、世界アルツハイマーデーでは各地の名跡名所がオレンジ色にライトアップされるなど、啓発活動は年々活発に拡大し継続されています。
ところで、認知症はよく知られているアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、脳血管性認知症の4つ以外にもさまざまな原因疾患によって起こり、その様子は原因となる疾患と個人差によってさまざまです。記憶障害が目立たないタイプの認知症もあります。単なるわがままや、気の強さとして片づけてしまうと、本人も家族も生活の中のストレスや困りごとが増え、生活が行き詰まることにつながりかねません。
Aさんは元々にこやかで礼儀の正しい人です。お金のこともきちんとしていて、これまで万引きや無銭飲食とは無縁の生活でした。事の発端は、よく行くスーパーからの連絡でした。お店の商品をお金を払わずに外にもって出ようとすることがあり、心配になってお店の人が連絡をくれました。その場で払ってもらえること、お財布がなく商品を返してもらうことがあるということでした。家族からお店の人にお詫びを伝え、また今後おなじようなことが起こったら、かならず支払いに行くと伝えました。
家族は、他の店でも同様のことがあるのではないかと心配しました。もし、万引きで捕まって、警察に通報されたら、Aさんはどうなるのでしょう。これまで、優しく礼儀がただしかったAさんがそんなことになるなんて、家族にとってはとてもつらいことでした。また、Aさんも家族に怒られ、悲しい思いをしていました。
認知症になると、例えば記憶力や、気持ちを抑制する力が低下し、お金は持っていたとしても会計を忘れたり、食べたいものをその場で食べてしまうことにつながる場合があります。また、記憶力の低下はほとんどなくても、毎日のように習慣的に繰り返す行動が起こる場合もあります。金銭管理力の低下から、所持金を使い果たしてしまい空腹になり食べてしまう場合もあるでしょう。いずれにしても、これらは客観的にみると万引きや窃盗、無銭飲食だと思われてしまう行為です。