育児書がすべて正解じゃない できることは子どもたちにもやってもらう

全部3つ 三つ子の子育て体験記

山本 美和 山本 美和

三つ子の子育てに必要なものは全部3つ。お腹がすくのも3人一緒。哺乳瓶は9本用意したけれど、それでも足りなかったバタバタの毎日。

ベビーシッターをお願いしていたSさんとの育児がスタートしてすぐのこと、「ミルクはね、自分で飲んでもらうようにするといいわよ」と衝撃の発言。

えっ?まだ寝返りもできない赤ちゃんに、自分で飲んでもらうって??確か育児書には、お母さんと赤ちゃんとのコミュニケーションのために、しっかりと目を見て・・って書いてあったような。「ひとりで飲めるの?抱っこして飲まさなくても大丈夫?」と聞き直すと、「お母さんができるときには、抱っこして飲ませてあげたらいいのよ。でも、無理なときってあるでしょ。そんな時は、これでいいの。みんな上手に飲んでくれるから」と朗らかな笑い声と軽い回答。

Sさんが教えてくれた自動授乳システムとは、ハンドタオルとベビー枕を駆使して赤ちゃんが自分で飲める高さに哺乳瓶を固定するという方法だった。これなら三人一斉にミルクを飲むことができるし、なにより授乳の時間に縛られないのがいい。

「○○じゃなきゃダメなんじゃない?」「育児書によると・・」はじめての子育てで、肩に力が入ってしまう私に、いつもSさんは「お母さんがラクできる方法を考えたらいいのよ」「育児はね、工夫よ」といつも朗らかな笑い声でアドバイスしてくれた。

ただ、ハンドタオルだと哺乳瓶が固定できないし、子どもたちが動くと口から外れてしまう。もっとしっかり固定できるけど、飲みたくなくなったら自分で乳首から口を離すことのできる自由さがあるものがあったらいいのになぁ、と思いながら哺乳瓶に輪ゴムを巻いてすべり止にするなど、トライ&エラーを繰り返していた。

そこから10年以上の月日が流れ、Sさん考案の自動授乳システムは育児グッズとしてすごい進化をとげていた。その商品名が、「ママの代行ミルク屋さん」。授乳の高さや角度が計算された専用の哺乳瓶まくらで、高さを調節できるだけでなく、表面に滑り止め加工や哺乳瓶をフォールドするカバーまで施されている。さらに子どもたちの首の角度に合わせて微妙な高さが調節できるよう、クッション材にも工夫が。あの時これがあれば、子どもたちももっとラクにミルクが飲めたのになぁと思う。育児グッズの発展は目覚ましい。

そして、ミルクにまつわるSさんのもうひとつの名言が「できることは、自分でする」。これは、ミルクを飲んだあとの哺乳瓶は、子どもたちが自分でキッチンまで持っていくというルールで、Sさんが子どもたちに教えたものだ。転がっている哺乳瓶を自分でテキパキと拾い上げたほうが、仕事は早いかもしれないが、おぼつかない足取りで哺乳瓶を持ってやってくる子どもたちに「ありがとね」と声をかけながら待っている時間。子供の成長を感じるこの瞬間が、私は好きだった。Sさんにベビーシッターをお願いしていたのは、子どもたちが保育園通い始めたところまでだったが、もしもあのまま小学校を卒業するくらいまでSさんがうちにいてくれたら、今頃は子どもたちが夕食を作って母の帰りを待ってくれていたのではないかと思う。

しかし残念ながら、子どもたちに手伝わせるより家事を効率よく終わらせる方を優先した日々の結果、現在の子どもたちの家事能力は母の願望とはほど遠いものとなっている。

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