出産後、ガリガリにやせて息絶えた母猫 子猫たちの運命は…

渡辺 陽 渡辺 陽

 野良猫だから強く健康に生きていけるというのは違っていて、野良猫は生きていくために想像を絶するような苦労をする。長崎県の明石さん(仮名)が発見した母猫と子猫も過酷な運命をたどった。

出産後、ガリガリにやせて息絶えた母猫

 長崎県の市の中心部から外れたのどかな町で医院をしている明石さん。ご主人が診察をしていると、どこからともなく子猫のニャーニャーという鳴き声が聞こえてきた。2013年9月、朝から小雨がしとしと降り続く日だった。

 とても猫が好きな明石さんは、診察後、猫の鳴き声がする隣の廃屋に塀を乗り越えて入ってみた。「確かにここから猫の鳴き声がする、どこにいるんだろう」

 実は、ちょうどその頃、お腹の大きな猫がうろついていて、出産後、ガリガリにやせているのを何度が目にすることがあった。明石さんは、もしかしたら、その母猫が出産した子猫ではないかと気になったのだ。

 予感は的中した。廃屋の中で母猫はすでに息絶えていた。2匹の子猫たちは生き残ったが、1匹は見るからに小さくて、ミルクもあまり上手に飲めなかった。

あまりにも小さかった子猫シュガーちゃん

 「なんとかして子猫を2匹とも助けたい」。ご主人は妻の孝子さんに子猫を託し、孝子さんは急いで動物病院にかけつけた。普通の大きさの子猫をクッキーちゃん、その2分の1ほどの大きさしかなかった子猫をシュガーちゃんと名付け、夫妻は懸命に介抱した。

 シュガーちゃんは、十分にはミルクを飲めなかったが、なんとか飲ませたという。

 「でも、3日目の朝に容態が急変して、意識がないような感じになり、急いで動物病院に連れていきました。ブドウ糖の注射など処置をしてもらいましたが、その日の夕方5時くらいに亡くなってしまったんです」

 未熟だったことに加え、足が腫れていて、そこからばい菌が入り、血液の中にも入ってしまい、息絶えた。

元気で甘えん坊なクッキーちゃん

 たった1匹生き残ったクッキーちゃんは、先に逝ってしまったシュガーちゃんの分も生きると言わんばかりに元気で、食欲旺盛な子だった。

 「まだ生まれたてだったので、動物病院の先生にも大変ですよと言われたんです。でも、迷いはありませんでした。排泄も自力ではできないので、ミルクの前にティッシュで刺激して排泄させ、ミルクの後にも排泄させて、夜中も起きて3時間おきにミルクを飲ませました」

 通常、母猫は排泄を促し、排泄物を食べてきれいにして、こまめに授乳をするが、クッキーちゃんの場合、明石さんがお母さん猫の代わりだった。

 クッキーちゃんは、とにかく元気で、お腹がすくとニャーニャー鳴いたという。

 元気に育ったクッキーちゃん。他の猫とは交流をせず、いつも高いところに登って、他の猫を見下ろしているという。でも、人の手で育てられたからなのか、人にはとても甘えん坊。手を伸ばして「抱っこ」と言ってくる。しかし、気が向かない時は、猫らしくツンツンしているそうだ。

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