ともすれば、インバウンド商戦に消極的な神戸を変えようと、鉄板焼き発祥の老舗「元祖 鉄板焼ステーキみその」(神戸市中央区)が奮闘している。大阪、京都や東京・銀座、新宿に5店舗を構え、「神戸ビーフ」を提供しているが、神戸本店では昨秋からイスラム教徒向けに「ハラール神戸牛」でおもてなしするなど革新的な取り組みをしている。その狙いとは。
鉄板焼きスタイルのルーツはここ神戸にあり、生田神社の南側に自社ビルを構える「元祖鉄板焼ステーキみその」がまさに元祖という。創業は1945年。戦火で焼け野原になった港町で産声を上げた。創業者の藤岡重次さんが造船場で手に入れた鉄板を元にお好み焼き店を開いた。やがて進駐軍にステーキを提供するようになり、鉄板焼きは瞬く間に「Teppanyaki」として認知され、英語の辞書にも記載されている。
カウンタースタイルは寿司店を参考にした。専門の料理人がテーブルにつくのもここで生まれたもの。焼き手の熟練された鮮やかなコテさばきも見せ場のひとつだ。また料理を一段とおいしくする「キャップ」と呼ばれる蓋(ふた)もここで使われ始めたものだ。
神戸の夜景を眺めながらいただく神戸牛は、まさに絶品だった。メニューは「季節の鉄板コース」が肉の種類に応じて1人1万2000円から用意しており、記念日にはロブスターが加わった「アニーバーサリーペアコース」(3万円)がお勧め。もちろん、ランチメニューも豊富だ。
それもこれもすべては「お客様のリクエストにお応えし、お喜びいただくこと」を理念に掲げてきたからこそ。その思いから、現在も新メニューを試作中だそうだが、昨秋からはムスリムの熱い要望に応え、何と「ハラール神戸牛」を完全な鉄板焼きとして提供するようになった。
ハラールとはイスラム語で「許されたもの」を意味する。使用するハラール神戸牛はハラール専用施設(三田食肉公社)で資格を持った業者によって生産され、「祈りが捧げられたもの」だとか。さらに神戸ビーフの定義や認証等の業務を担う神戸肉流通推進協議会の最も厳しいとされる基準に合格したもので「ハラール認証」と「神戸肉之証」がそろった特別な逸品だ。