獣医師としておすすめする猫の避妊・去勢手術 喧嘩ばかりしていた小鉄君の場合は…

小宮 みぎわ 小宮 みぎわ

 幼い猫を飼い始めて動物病院へ連れて行くと、生後半年くらいまではおよそ決まったプログラムで診療が進められます。最初は、からだ全体の異常の有無をチェックし、先天性の心臓疾患や口蓋裂(鼻の孔の奥と口の間を仕切る板に割れ目があること)がないかのチェックもします。それから、飼い方指導、ごはんのお話のほか、ワクチンを複数回投与します。生後4~5カ月齢を迎えると、乳歯から永久歯への生え変わりが問題なく終わるのを確認してから、避妊・去勢手術をおすすめる…という流れです。

 その後は、ワクチン接種などを除き、健康であれば動物病院へは用事がありません。犬は、病気でなくとも毎年春には、フィラリア予防薬の処方や狂犬病注射を打ちに、動物病院へ行く用事があるのですが…。

 避妊や去勢手術には賛否両論があるようですが、動物病院の獣医師としては、200%!しておくことをおすすめいたします。『元気な子にメスを入れるなんて…』とおっしゃる方がおられますが、元気なうちに行っておくことで、高齢になるとかかるかもしれない厄介な病気を予防できます。『自然なからだで生かしてあげたい…』とおっしゃる方もおられますが、そもそも人間社会の中で一緒に生活を送ること自体が、自然ではないと思います。人間同様に、お年ごろになれば異性に興味を持ちます。その時に、彼女(彼氏)が見つけられるでしょうか?難しいと思いますし、その様な気持ちは抑えてあげなければストレスとなります。

 猫の場合は、避妊・去勢手術をしていないと、春に発情して家の外に飛び出し交通事故に遭ったり、雄猫は彼女の取り合いで喧嘩をして、ケガをしたりします。雌猫が外に出ると、望まない妊娠をしてしまうこともかなりの確率であります。そうなっては困るので、獣医師の説得に応じて避妊手術をされる方が多いのですが、雄の去勢手術は、希望されない方が多い気がします。特に…男性の飼い主さんが頑なに去勢手術を拒むことが多い印象ですが、なぜでしょうか?

  ◇  ◇

 私は動物病院に10年以上勤務してきて、犬や猫で『小さい頃に避妊・去勢さえしておけば、こんな辛い思いをせずに済んだのになぁ…』と思うことがしばしばあります。

 『小鉄君』は2009年生まれで、今年10歳になる白黒柄の雄猫です。当初は去勢されておらず、田舎で飼われていたので、外にも出かけることが許されていた猫でした。そのため、しょっちゅう喧嘩をして、前肢や顔や背中を咬まれて膿んでしまい、そのたびに病院へ連れてこられていました。飼い主さんも慣れたもので、当初は喧嘩して腫れるたびに病院へ連れていらっしゃいましたが、そのうち動物病院での治療方法を習得され、軽傷の場合には自宅で手当てをなさることもありました。

 ある時は顎に大きな膿瘍(膿が溜まったふくらみ)が出来ていたため、切開して傷の洗浄に何日か通っていただき、傷がきれいになったところで、医療用ステープラーで縫合して帰られました。それなのに小鉄君は、その翌日には再び大喧嘩してステープラーを全部外し、傷口が開いたままで自宅に帰ってきました。小鉄君はそんな、喧嘩っ早い猫ですが、首輪にはなぜか可愛らしい赤いイチゴの形の鈴がついていました。そして、我々が傷の手当てをする時には、じっと痛みに耐えておとなしくしていて、『先生、すまんこってす…』とでも言ってるようでした。

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