「いつの間にか増えてしまった」佐渡の“ウサギ寺”で飼育崩壊…80代住職が明かす寺の苦境と胸中「反省している」

渡辺 晴子 渡辺 晴子

ウサギ観音で知られる佐渡島(新潟県佐渡市)の長谷寺(ちょうこくじ)で、ウサギの多頭飼育崩壊が起きていたことが分かりました。住職の富田宝元(ほうげん)さんによると、一時期は140羽近くいたとのこと。そこで、昨年11月から同県動物愛護推進員の近藤陽子さんらがボランティアに入り、寺内のウサギ小屋の飼育環境改善に取り組みを開始。ウサギの保護や譲渡を行い、適正な数にまで減らすよう努めているそうです。

多頭飼育崩壊が起きていたことについて、富田さんは「もともとは除草のためにと『草取りウサギ』として飼い始めたのですが、いつのまにか増えてしまって反省しています」といい、「ボランティアの方々に協力をお願いしながら適正飼養を目指していきたい」と話しています。

寺の維持管理に困窮…15年ほど前からウサギを飼育

長谷寺は2018年11月、「草取りウサギ」にちなんでウサギの姿をした高さ約6メートルのウサギ観音を建立。一躍「ウサギのいるお寺」として全国的に有名になったお寺です。富田さんによると、寺の維持管理に年間200万ほどかかるなど生活に困窮していたため、15年ほど前から草取りをさせるウサギを飼い始めたとのこと。今も、境内には15件の国登録有形文化財の建造物があり、老朽化が進んで修繕もままならず。また、檀家が約40軒まで減っており、富田さんの跡継ぎが決まらず寺の継続運営も難しい状況に直面しているそうです

さらに、ウサギ観音を建てた同年9月には、台風による強風で庫裏の屋根が吹き飛び、約2千万円と見込まれる屋根修繕費の工面にも苦労。佐渡観光交流機構と協力してクラウドファンディングなどで寄付を募りましたが、まだ500万ほど足りないといいます。

そんな困窮した生活を理由に草取りウサギを飼育していたことについて「ウサギには感謝しています。ウサギが寺を守ってくれてありがとうという気持ちを込めて銅像も2体建立しました。しかし、ウサギが増えてしまって大変申し訳ないと思っています」と富田さん。

「今はウサギ小屋をあらたに作ったり、去勢費用なども出したりしながら、ボランティアの方にウサギ小屋の適正管理をお願いしているところです。今後は、適正管理を維持しながら参拝者から入館料(拝観料)をいただくなどお寺の運営も立て直していきたいと思っています」と説明します。

昨年11月から、県動物愛護推進員らがウサギ小屋の環境改善を開始

ボランティアとして寺内にあるウサギ小屋の飼育環境改善に取り組んでいる近藤さん。米国・カリフォルニアの大学で動物学を学んだあと、2014年佐渡島に移住してきました。現在は、トキの野生復帰に関わる仕事をしながら、同島で犬猫をはじめウサギなどの動物を保護する活動も行っています。

近藤さんによると、昨年11月に地元の新聞で同寺のウサギの飼育者募集記事が掲載され、当時約130羽を飼っていたことを知ったそうです。そこで多頭飼育崩壊を疑い、「適正飼養がされておらず、飼育環境が動物愛護管理法に抵触している恐れがあるのではないか」と思った近藤さん。寺内のウサギ小屋に入ることを許され、環境改善に乗り出すことになりました。

「問題視をしていたので、なんとかしたいという思いがあり入ることを決意。実際入ってみると、小屋もものすごく汚くてウサギを持ち上げると足の裏にふんがついていました。多くのウサギはけがや病気をしており、さらにウサギの遺体が次々と出てきて…目を覆うばかりのひどい状況でした。保健所側に実態を伝えると『早急に対応したい』とこれまでの認識を変えていただけたようです」と振り返ります。

多頭飼育崩壊が起きた理由として「避妊、去勢手術をせずに雌雄を一緒に飼育していたことが主な理由だと思います。まずはこれ以上増えないように雌雄を分けました。続いて、避妊・去勢手術を行うのですが、島には避妊手術ができる獣医師さんがいません。ですので、先に雄ウサギの去勢手術から着手しました」。

130羽から20羽まで減少、最終的には9羽以下へ

近藤さんのほかボランティアの女性が加わり、ウサギ小屋の適正管理をしながら今後のウサギの飼育などについて住職の富田さんとは話し合いを続けてきたそうです。今年1月末、ウサギを手放したくなかった富田さんも近藤さんたちの懸命な活動に心を打たれ、ウサギを増やしてしまったことに深く反省。「ある程度のウサギを残して後は手放してもいい」と、管理できる適正な数までに減らすことを承諾したとのこと。

近藤さんは「私たちボランティアが保護・譲渡を行っているのですが、このままの数では非営利の動物取扱業者として行政に届け出なければなりません。規制対象にならないよう、9羽以下に減らしていくつもりです」と話し、現在は20羽ほどまで減らしているといいます。

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右耳のない雌ウサギを保護 一時回復したが… 

近藤さんが今年1月8日に寺内のウサギ小屋から保護した雌ウサギのWizzyちゃん。2月下旬、亡くなりました。近藤さんはこう振り返ってくれました。

「ウサギ小屋に入った11月末ごろはだいぶ寒くて。小屋も糞尿と雨と雪の吹き込みで地面がびしょびしょ。そんな過酷な環境下に右耳がなくて、お尻には直径10センチほどの脱毛し汚れとパスツレラ感染症による膿(うみ)で固まったかさぶたのようなものがあるWizzyちゃんを見つけました」

「雌なので雄から交尾を迫られて背中とかかみつかれたような痕が何カ所かあって…あまりに状態が悪く、明らかに治療が必要な状態で放置したら必ず死んでしまうと思いました。様子を見つつも、私自身もウサギを飼ったことがなかったので、飼うことにためらっていました。でも、これ以上Wizzyちゃんをそのままにしておけないと今年に入り、その子を譲り受けたんです。名前はWisdom(英知)ことWizzyと名付け、懸命に看病してみるみる回復。私について回るなどとてもよくなついていましたが…2月26日に虹の橋を越えました」

80代の住職、適正飼育に前向き ボランティアも「応援していきたい」

2月に入り、近藤さんたちのほか2人のボランティアがさらに加わり計4人でウサギ小屋を管理。これまで去勢手術をはじめ、病気やケガなどのウサギは動物病院で治療を受けさせ、治療が済んでも他のウサギに襲われそうな場合は近藤さんたちが預かっているそうです。小屋にいる約20羽のウサギは、繁殖しないように雌雄を分けています。

「お寺がすごく困窮していて後継者が見つからないことが、ウサギを飼うようになった経緯の1つだと伺っています。ただ、住職は80代のご高齢。適正な飼育ができていないことは確かでした。ウサギの寿命は6歳から10歳ほど。終生飼育していただくことを考えると、私たちが適正の数に減らしたあとはウサギを増やすことなく、管理していただきたく思います。住職は前向きに適正飼育を考えており、私たちも応援したいです」と近藤さん。

さらに「佐渡には佐渡にしか生息していない絶滅危惧種のサドノウサギが生息しており安易なウサギの放し飼いは感染症の伝播や生息環境の競合など、佐渡の貴重な生態系に悪影響を及ぼす恐れがあります。ペットは野生動物ではないので、適正に飼育するよう努める必要があり、脱走防止、健康や安全の確保は飼い主の義務です」と訴えます。

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長谷寺で保護されたウサギたちの里親をはじめ、ウサギ小屋の管理を手伝うボランティアを募集しています。里親に関しては、佐渡まで起こしいただける方とか、新潟港で受け渡しができる方。また、過酷な環境下で育ってきたウサギたちは、近親交配で遺伝的な悪影響があったり、どういう病気を持っているか分からないため突然死の可能性もあったりするとのことです。そういったこともご理解していただける方を募集しています。募集は、佐渡犬猫情報「猫ときどき犬」のブログやTwitter、Facebookの近藤さんまでお問い合わせください。

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