“パリ人肉事件”佐川一政・実弟が明かす、猟奇的犯行の背景「理解できてしまった」

石井 隼人 石井 隼人
佐川一政の実弟・佐川純氏(撮影・石井隼人)
佐川一政の実弟・佐川純氏(撮影・石井隼人)

 兄・一政同様に3歳頃から目覚めたという自らの特異な性癖について純氏は「自分はおかしいのではないか?とずっと悩んでいました。それもあって、兄のカニバリズムという願望が理解できてしまった部分もある。しかし兄の食べたいという衝動のために人を殺めたという点だけは、いまだに許せません」。兄・一政も自分と同じように苦悩の中にいたのではないかと推察すると同時に、自分勝手な衝動でなんの落ち度もない女性を殺めたことに対する怒りと絶望が入り混じる。

 2015年6月から約1カ月に渡り、佐川兄弟の生活を撮影した人類学者ヴェレーナ・パラヴェルとルーシァン・キャステーヌ=テイラーに、純氏は自らの性癖を告白した。ヴェレーナ監督らはそこに兄・一政のカニバリズムと密接に繋がる関係性を見いだし、純氏の他者を傷つけない自己完結の行為を映像として納めた。

 カミングアウトした理由について純氏は「監督は人類学者でもあるので、医学的見地から考えてほしいという願いがありました。世間に受け入れられるまでには時間がかかるとは思うけれど、私と同じ癖を持っている人間が世の中にはいると信じています。今回のドキュメンタリーを通して、自分のような人間も一つの形として存在している、ということを広く知ってもらいたい」と願う。

 現在、兄・一政は誤嚥性肺炎をこじらせて入院中。純氏は身の回りの世話や入院手続きなどに奔走中。大手広告代理店を50歳で早期退職し、現在独身。事件のせいで結婚話も破断になったこともある。兄が犯行の一部始終を書籍化したり、AV男優になったりする行動に対して理解に苦しんだこともある。しかし「もし兄が事件を起こさなかったら?」という「if」は考えないことにしている。

 純氏は「人を殺めたことは許されることではないし、遺族に対して申し訳ない気持ちもある」と兄・一政が犯した過ちを背負いながら「ある程度兄のことを知っていたので、受け入れることができました。それを受け入れないのは本当の親ではないし、本当の兄弟でもないと思います」。

 例えあらがえぬ欲望があったとしても、他者の尊い命を奪ってもいい理由には一切ならない。しかしその背景には、常人には理解しがたい複雑な闇が横たわっていた。『カニバ パリ人肉事件 38年目の真実』は、観る者に何を問いかけるのだろうか。

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