日本人大学生の佐川一政が、1981年6月11日に留学先のパリで起こした猟奇的殺人事件。自宅に招いたオランダ人大学生ルネ・ハルデルベルトさんの後頭部をカービン銃で撃ち抜き、遺体から肉を切り取って一部を食した。「殺そうとしたのではない。ただ食べたかったのだ」。心神喪失状態での犯行と判断された佐川は不起訴処分となり、日本帰国後は執筆活動やアンダーグラウンドなタレント活動を行った。
事件から38年。現在の佐川一政(70)の姿を捉えたドキュメンタリー映画『カニバ パリ人肉事件 38年目の真実』が7月12日から公開される。2013年に脳梗塞を患い、要介護5の状態にある佐川を献身的に介護しているのは、実弟の佐川純氏(68)だ。ポツリポツリとしか喋ることのできない兄・一政のスピーカーのような役割として、ドキュメンタリー本編にモザイク処理もなく、素性を明かして出演。加害者親族として、なぜ純氏は今再び事件を掘り返すような企画に賛同し、自らの顔や名前を、さらには自身の秘密までをもさらけ出すに至ったのか。話を聞いた。
兄・一政が38年前に犯した蛮行について純氏は「人を殺めたことに関しては、事件当時から一貫して許されるべきことではないと思っています」と断罪する。だが、自らを加害者家族に貶めた兄・一政を絶縁しなかったのには深い理由がある。自分たちの生育環境が兄のカニバリズム(人肉食)願望に火をつけ、それがのちの殺人という卑劣な犯行に繋がったと考えているからだ。
「私たちの両親は非常に厳格で、親にとって都合の悪いものは子供たちに一切見せないという世界で育てられました。思春期になると性的なものに興味を持ちますが、そういった類もすべて禁止されていた。その抑圧が“ひずみ”として、結果的に兄や私に出てしまったのだと思う」
純氏のいうその“ひずみ”とは、兄・一政にとっての人肉食願望。一政には3歳の頃から外国人の白い肌に対する脅迫観念に似た執着があり、それが次第に性欲と結びついて人肉食願望に発展していったとされる。そして純氏自身にとっての“ひずみ”とは、劇中で衝撃的に明かされる、ある特異な性癖を指す。同じ“ひずみ”を持つ者として、だから兄を切り捨てることができなかった。