大学入学共通テストが行なわれた15日、都内の東大前の歩道上で、受験生の男女高校生と都内在住男性の計3人が刃物で背中を切り付けられて負傷した。容疑者として名古屋市に住む私立高校2年の少年(17)が殺人未遂容疑で現行犯逮捕されたが、「夜回り先生」こと教育家の水谷修氏は「東大前傷害事件報道に感じる違和感と危機感」と題し、少年法の原点を逸脱した報道の在り方に警鐘を鳴らした。
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東京大学前で、大学入学共通テストの受験生2名と男性が刃物で切りつけられる事件が発生しました。命に別状がなかったことは救いです。
この犯人は、報道では、名古屋市内の17歳の少年で、名古屋市内の高校2年生の男子生徒と報道されています。現在も、この少年について、犯行動機などが日々報道されています。また、この生徒の通う高校からは、いち早くコメントが報道機関に流されました。父親からも、弁護士を通じて、謝罪のコメントが各報道機関に流されました。
私は、この事件に関する今までの報道を見て、大きな違和感と危機感を感じるとともに、一部怒りを抱いています。
まずは、捜査関係者より、報道関係者に、この少年の供述が流されていることです。少年事件に関しては、裁判の公開が憲法により原則となっている成人の刑事事件と異なり、その審判は非公開と、少年法により決められています。この事件に関しては、もしかしたら家庭裁判所から地方裁判所に逆送となる可能性は排除できませんか、現在の状況では、審判の非公開を前提として、いかなる情報も報道機関に漏洩することは許される事ではありません。警視庁は、速やかに情報漏洩を行った捜査関係者を特定し処罰すべきです。
これと、同様の理由で、この少年が在籍した高校がコメントを出したことも、少年法の規定に反する行為です。少年の特定につながり、少年法により守られている、少年やその家族のプライバシーを侵害する行為です。しかも、高校独自に、だれが判断したのかはわかりませんが、この事件の背景分析まで行っています。単なる想像に過ぎないのに。私は、このコメントを読みましたが、単なる高校による自己弁護としか思えませんでした。
また、いつも繰り返されることですが、各報道機関から流れてくる情報は、さきほども述べた少年法の趣旨に反するものばかりです。いくつかのテレビでは、同級生や同じ学校に通う高校生への直接の取材を流していました。これは、許される事なのでしょうか。これ自体が、報道機関の取材によってこの少年を特定させるという違法行為なのではないでしょうか。また、その内容も、その生徒の日々の生活の様子や性格について質問し、それを答えてもらうものが多く、あくまで取材対象の高校生の個人的なまた主観的な発言を、何の裏取りもせずただ流しています。当然その内容についての責任は、発言した高校生たちに負わせて。こんなことが許されていいのでしょうか。
どうぞ、情報漏洩した捜査関係者もこの生徒の在籍する高校の先生たちも、当然取材に当たる報道機関の関係者も、少年法第22条をきちんと読んでください。そして、自らが犯した違法行為について、きちんと償って欲しいと考えます。なにより、いち早くこの少年が特定される情報を報道機関に流した捜査関係者を私は許すことができません。
確かに、少年であっても犯した罪は償わなくてはなりません。でも、少年は人格的に未熟な存在です。また、それまでの環境や社会状況に影響を受けやすい存在です。だからこそ、その更生と社会復帰の可能性を、少年法により守られています。この少年法の原点が、今回の事件に関して忘れられていると感じるのは、私だけでしょうか。そうだとしたら、私たちの社会は、危険で危機的なものです。