「イイ女が続々殺される!!絶対見てくれ!!」 自由すぎる手描き映画看板の世界

黒川 裕生 黒川 裕生

 スーパーヒーロー映画「アクアマン」のタイトルの下にまるで正式な副題のごとく堂々と躍る「海底大決戦」の文字。あるいはホラー映画「サスペリア」を告知する惹句「これは酷い!!イイ女が続々殺される!!絶対、みんなで見てくれ!!」。いずれも大阪・新世界の名画座「新世界国際劇場」に掲げられた手描きの看板である。制作しているのは、大阪市西成区に工房を構える「映画絵アーチスト」八条祥治さん(62)。レトロ感あふれる手描きの味わいはもちろん、最近ではそのあまりにも独特な言語センスが、Twitterなどでも注目されている。自由すぎる惹句の数々は、一体どのように生み出されているのだろうか。

 シネコンが隆盛を極める今、手描きの映画看板はもはや絶滅寸前だ。全国でも数少ない現役の職人として知られる八条さんは、25歳の頃から、先代で父の孝昌さん(故人)を手伝い始めた。

大阪や和歌山にあった東映直営館の看板を手掛けてきたが、時流に逆らえず相次いで閉館。孝昌さんが亡くなった2007年頃には、ついに映画館の仕事が全てなくなってしまったという。前任者の引退に伴い、新世界国際劇場の看板を請け負うようになったのは2010年から。他に店舗の看板や企業広告の注文が入ることもあるが、映画看板の仕事は今、ここ一本だけだ。

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 「劇場からの発注です。私が考えているわけではありません」

 ネットでもたびたび話題になる“名コピー”について八条さんに質問すると、そんな拍子抜けする答えが返ってきた。新世界国際劇場からの注文書を見せてもらうと、そこには「常軌を逸した男の顔面クロース・アップです」「異様な形相にして下さい」「血しぶきはスチル(写真)より赤めに」といったイラストに関する細かい指示や、先述した「海底大決戦」や「月面探索実話巨弾」などの目を引く(そして公式には存在しない)キャッチコピーの類がびっしりと書き込まれていた。

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