引退前はバナナ姫に変身してイベントに参加しているとき、長女や次女に、「ママって呼んだらだめよ」、「ちょっと離れてて」と冷たく接したこともあった。忙しさから子どもたちと一緒に過ごす時間が減り、笑顔で接する心の余裕を失って、仕事と家庭の両立に悩んだことも引退の理由のひとつだった。
「もう一度やろう」と決めたとき、井上さんは長女に「ママ、またバナナ姫になろうと思うんだけど」と相談すると、「ふーん」と最初は関心がなさそうだったという。だが、衣装の修繕やウイッグの染色を「私もする!」と率先して手伝ってくれた。次女もそんな母親の姿を見て嬉しそうにしていたそうだ。
復活の日に選んだのは10月7日。バナナ姫ゆかりの地・門司港バナナ博物館でのイベントだ。前日、長女は「ママへ あしたがんばってね!」と、つづったイラスト入りの手紙をくれた。長女と次女はイベント当日も寄り添い、着替えや荷物持ちなどを手伝ってくれた。
「すごく緊張しましたけど、みなさん温かく受け入れてくれて、とてもありがたかったです」。なかには遠方から復活の知らせを聞いてわざわざ駆けつけたファンもいたという。地元のテレビや新聞など5社以上から囲み取材も受けた。ファンからは「また会えるようになって嬉しい」、「とにかく無理はしないで」との声が寄せられた。
「仕事、家庭、そしてバナナ姫と、体力的な負担が大きいのは以前と変わらないですし、『きつくない?』、『なぜそこまでするの?』といってくださる方もいるんですが、私ってたぶん、無理をしたい人なんでしょうね(笑)。こうして復活でき、地元のイベントに招いて頂いて、いまは楽しくて仕方ないんです。娘たちには、ママがいきいきと楽しんで働いている姿を見せられたらと思っています。そうすれば子どもたちにもいい影響を与えられるんじゃないかなって」
市の観光PRや誘客のきっかけづくりが”第1章”だったとすれば、始まったばかりの”第2章”ではどんなことをしたいかと尋ねると、井上さんは「応援してくれる地元の方々とともに地域の活性化につながる活動をしていきたい。クラウドファンディングなどの手法にも興味があります。後継の2代目探しももちろん進めていきますよ」と意気込みを語った。新たな挑戦が楽しみだ。