吉本興業の岡本昭彦社長が、所属芸人らが反社会勢力の宴席で闇営業を行った問題や、芸人への対応をめぐって批判を浴びたことなどについて会見した。同社と芸人の間では契約書が無く、ギャラの配分も不透明であることが問われたが、岡本社長は契約書についての質問に「ベースは人間関係」と現状では書類ありきではない考えを示した。他方、カラテカ入江が契約解消された際、芸人から「契約解消というなら契約書を作ってほしい」との声があがった。契約書が無いことの問題点を、日本テレビ「行列のできる法律相談所」に出演する北村晴男弁護士に聞いた。
力関係の強い側が契約書を必要としない
北村弁護士によると、書面をかわさない口頭のみによる契約も理論的には成立する。ただ、その場合は事実上、契約内容が非常に単純なものに限られるという。例えば、ある物品を売買する際に両者間で価格を取り決めるケースがこれに当たる。
他方、芸能人とのマネジメント契約となると口頭だけで済ませられるような単純な内容ではなく、複雑な内容が多く含まれるという。例えば、
(1)テレビ局から事務所に支払われたギャラのうち何割をマネジメント料としてさし引いて芸人に支払うのか
(2)その際の振込料はどっちが持つのか
(3)自分でとってきた営業(直営業)をやっていいのか悪いのか
(4)事務所がとってきた仕事を芸人が断ることができるのか、できるとすればどういう場合か
(5)楽曲を作ったら著作権の行方はどうなるのか
など、枚挙にいとまがないという。
北村弁護士は「さまざまな現代社会特有の細かい内容があるのでこれを口頭だけで合意しろというのは事実上、無理と言えます」と指摘。従って、現代では多くのビジネスシーンで合意した契約内容を書面にして取り交わし確認するという。
契約書が本来あるべき関係においてなぜ無いのか。北村弁護士は「力関係が絶対的に強い側が契約書を必要としない」と指摘。強い側と弱い側の間で圧倒的な従属関係があると、弱い側はいいなりにならざるを得ない。従って弱い側をいつでも自分の思うとおりにできるので契約書を作る必要がまったくない。むしろ、あらかじめ合意して契約書を作ってしまうと、それに縛られることになり、好き勝手ができなくなるので不都合にもなり得る。だから、強い側が契約書を作ることは損だと考えることになるという。