鹿児島には1日の疲れ(=だれ)を焼酎の晩酌で癒す(=止める)「だいやめ」(「だれやめ」ともいう)という慣習があり、鹿児島県出身の20代の若者2人が制作するウェブサイト「だいやめキッチン」が、地元メディアなどで紹介され注目を集めている。芋や黒糖などの本格焼酎蔵が100以上ある鹿児島で、2人は若い感性と新鮮な視点で焼酎文化を見つめ、「『だいやめ』を世界に発信していきたい」と張り切っている。
「だいやめキッチン」は、WEB制作などを行う「株式会社LuckyBrothers&co.」の代表取締役でプログラマーの田島真悟さん(27)と、取締役でディレクターの下津曲浩さん(24)が手がけている。同サイトの内容は、手軽に作れる焼酎のおつまみレシピ動画、飲み方、蔵紹介など“今日のだいやめをちょっぴり豊かにする”情報と、季節にあった焼酎、おつまみをセットで毎月宅配するサービスの2本柱。
田島さんと下津曲さんは同じ鹿児島市内の高校出身で、田島さんが2学年上の先輩。大学卒業後、それぞれ東京にある別のWEB制作会社に就職したが、2016年7月、田島さんが起業。東京で同社を一緒に立ち上げた。
収益の柱となるWEB制作と、新たに挑戦する自社事業。この2つを東京と地元・鹿児島の2拠点で行っていく。それが同社の方針だ。「企業理念は『もっとよくばる』なんです。その真意は、叶えたい2つのことがあったとき、どちらか片方に絞って、もう一方を諦めてしまうのではなく、どちらも得られるよう創意工夫を重ねていこうということ。そして、自分たちの構築したビジネスで地元の人たちの雇用を多く生み出すことが目標です」(田島さん)。
17年2月、本拠地を東京から鹿児島へ移した。2人とも親世代が夜、だいやめをする姿は子どもの頃から知ってはいた。その良さを再発見し、焼酎を事業の核に据えようと思ったのは、東京から戻ってきて鹿児島人の焼酎愛に接したからだった。
ある飲食店の「本格焼酎を楽しむ会」というイベントに2人が初参加したときのこと。「『この焼酎には蔵のこんなこだわりや思いが込められているんだ」、『黒麹の酒にはこの肴(さかな)がすごく合うよ』など、焼酎について互いに熱く語る参加者が大勢いて、焼酎にはこんなふうに語りあえる楽しみがあるんだと実感したんです」(下津曲さん)
田島さんは、東京で約3年間、一人暮らしをしつつサラリーマンをしていたころを思い出した。「少しお金を出してレストランや居酒屋で外食するか、家の前のコンビニでお酒と弁当を買って帰るかのどちらかでした。真ん中がスポッと抜けていた…」
その“真ん中”というのは、田島さんによれば「5分でもいいから台所に立って自分でおつまみを作ったり、その日の気分に合ったお酒や料理にこだわってみたりすることで、晩酌のひとときを豊かに過ごすこと」という。
地元に戻ってきて、焼酎好きが傾けるうんちくや、酒とおつまみの相性などを聞くうちに、「鹿児島にはだいやめっていう素敵な文化がある。都会で一人で住んでいると、僕みたいに食事が両極端な人は少なくない。その真ん中の間隙を埋めてくれるのが、だいやめ文化という価値観なんじゃないかって思ったんです」(田島さん)
晩酌を楽しくする知恵や工夫を自分たちなりの視点で情報発信しながら、おすすめの焼酎とおつまみのセットを提案、販売してはどうかー。そんなアイデアを思いついた。しかし、具体的にどうやって事業化すればいいのかわからなかった。片道2時間かけ、蔵の人にアドバイスをもらいにいったこともあった。
そんなとき、ちょうど焼酎の新しい売り方を模索していた鹿児島市内の酒店主と出会い、意気投合した。フードコーディネーターも加わり、三者が協力することで焼酎とおつまみの宅配サービスが実現。17年11月、新酒が出る時期に合わせて新事業をスタートさせた。
宅配便は、プロが厳選した季節のおすすめ焼酎、おつまみと、蔵元の思いなどをまとめた冊子のセット(価格は月額3240円税、送料込み)。冊子やウェブのコンテンツ作りでは、読者に思いがきちんと伝わっているかどうか、2人で喧々囂々の議論を交わすこともあるそうだ。
事業が軌道に乗れば「宅配便限定のオリジナル焼酎を作りたい」(田島さん)。「お洒落なボトルの飲み比べセットなど、これまでにないようなサービスも考えていきたい」(下津曲さん)と2人は目を輝かせる。
「美味しいお酒とおつまみは、心も体もホッと癒してくれます。いまでは、今晩はどの銘柄をどんなおつまみで飲もうかと考えるだけでワクワクする自分がいます」と笑顔で話す田島さん。1日をしめくくる晩酌が豊かで充実した時間になれば、きっと明日もまた頑張ろうと思えるはずだ。「だいやめキッチン」はhttps://daiyame.kitchen