「なっぱ電車」をご存じだろうか。2013年まで京成電鉄を走っていた野菜行商専用列車の通称だ。これだけではない。かつては魚や野菜を運ぶ行商列車が日本中を行き交ったが、平成が終わる今、残るのは近鉄の鮮魚列車1編成のみという。そんな中、神戸市営地下鉄でその幻の光景が1日限りで再現された。採れたてのニンジンやホウレン草が詰まった台車で乗り込んだのは、23歳の「八百屋女子」。その壮大な野望とは-。
フードロス削減に「規格」をなくしたい
ソーシャルビジネスに取り組む「ボーダレス・ジャパン」のグループ会社として、八百屋「タベモノガタリ」を経営する竹下友里絵さん。「規格外」の野菜が大量廃棄される現状を知り、「見た目と味は関係ない。規格自体をなくし、本当に新鮮でおいしい野菜を届けたい」と神戸大4年生だった今年2月に起業した。
今回、竹下さんが乗り込んだ市営地下鉄西神・山手線の始発駅、西神中央駅周辺には住宅街の周りに田園地帯が広がり、野菜やコメが生産されている。だが、例えば旬のチンゲン菜では「小さい虫食いが1か所とか、葉が左右不ぞろいなだけで『規格外』。1割ほどは廃棄になる」とある農家。レストランなどとの直接契約や三宮や大阪など都市部での直売も増えてはいるが、別の農家は「人員不足で配送料も上がり、自前で運ぶにも人件費や交通費の方が高くつく。多少規格が厳しくても従来の流通ルートの方が楽」と打ち明ける。
高齢化、空洞化するニュータウン
一方の神戸市営地下鉄。都心と郊外のニュータウンを結ぶ動脈として1977年に開業し、1日平均約31万人を輸送する。だが、中にはまちびらきから30年以上経過し、急激な高齢化で「オールドニュータウン」化する街区も少なくなく、沿線の神戸市須磨区は日本創生会議の「消滅危険都市」に名を連ねた。
地下鉄の乗降客数も漸減傾向になると予測され、若い世代にもアピールできるような駅周辺の活性化が課題になる中、持ち込まれたのが竹下さんの企画だった。「産地と消費地が近い神戸の利点を生かしつつ、CO2排出量の少ない輸送方法として地下鉄を見直すきっかけになれば」と同市交通局。オフピーク時の平日昼間に野菜を運ぶ、前例のないイベントに踏み切った。