熊本・わいた温泉郷…秘湯の看板ねこシロ

九州温泉ねこめぐり

西松 宏 西松 宏

 勝さんは振りかえる。「このクロがね、かわいくないやつなんです。荒々しい性格で、決して人になつかず、せっかく餌をやってるのにシャーと威嚇したり、来たかと思えば1週間ほど姿を現さなかったり。行動範囲が広くて他の野良猫とけんかすることも多く、いつも生傷がたえませんでした」

 ちなみに、クリーム色の毛並みなのになぜ「シロ」と名付けられたかというと、「母が『クロの反対はシロだから』と(苦笑)」(勝さん)。シロがここに居着くようになると、クロはシロの餌を横取りしたり、受付の前でたたずむシロを追いかけ回したりしていじめることもあったという。

 そんな風来坊のクロは約2年前、敷地内で命尽きた。年老いていたので老衰だったのではという。シロはその後、ますます食欲旺盛になった。クロがいなくなり、のびのびと暮らせるようになったからかもしれない。

 「いま体重は6・5キロ。久しぶりに来られたお客さんからは『あらー、シロちゃん、こんなに大きくなったの!』とびっくりされることもあります。私がちょっと散歩に行こうよと誘っても、何歩かついてくるだけで、すぐゴロンとなってしまいます。太って動くのがおっくうになってきたのかも。1日の大半は受付で寝ています」と睦子さんは少しあきれ顔。

 今夏の猛暑は相当こたえたのか、7月下旬、シロは体調を崩し、動物病院に3日間入院した。点滴も打ってもらい、昼ごろ帰ってくると、シロは急に建物の前の茂みへ走りだした。いつもはおとなしいシロが、こんなふうに逃げ出すのは初めてのことだった。

 睦子さんは必死で周辺を探し回ったが、夜になっても見つからず。雨も降り出し、半ば諦めた矢先、止まっていたトラックの下から、か細い声で「ニャー」と鳴いて出てきたという。「治療とはいえ3日間も離れ離れだったから…。つらい思いをさせてごめんねと、強く抱きしめました。主人も『本当によかった。心配させんなよな』って」(睦子さん)。

 敷地内には自噴する高温の蒸気を使った「地獄蒸し」があり、卵や手羽先、サツマイモなどを自由に蒸して食べられる(食材持ち込みも可)。風呂に入る前に蒸し器に入れておけば、30分から1時間ほどで食材がホクホクに。雄大な景色を眺めながらつかる青湯、おいしい蒸し料理、そして看板ねこのシロ。なんともぜいたくな癒しのトライアングルだ。

▼「豊礼の湯・豊礼の宿」熊本県阿蘇郡小国町西里 2917 電話0967・46・5525

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース