2011年秋、岡山市保健所(岡山市北区)に1匹の白い老犬が収容されていました。推定年齢は10~12歳。当時は「命の期限」が設けられており、その犬も間もなく殺処分予定でした。
「そのことをSNSでたまたま知ったんです。九州とかの情報が流れてきても『遠いから何もできない』と自分に言い訳していましたが、それは通用しない。自問自答の末、初めて保健所に行きました」
そう話すのは現在、岡山市を拠点に犬猫の保護・譲渡活動をしている『一般社団法人ALL AS ONE(オール アズ ワン)』代表の田村江里子さん。実はその老犬との出会いが活動を始めるきっかけとなりました。
「忘れもしません、初めて会ったのは2011年10月1日でした。自分の未来が分かっているかのように生気のない感じで、このまま殺処分なんて不条理すぎると思いましたね」(田村さん)
保健所の職員に「必ず迎えに来るから殺処分を待ってほしい」と頼んで帰宅した田村さんは、仕事仲間や友人に相談。「3人で面倒を見よう!」と話がまとまり、10月3日に保健所を再訪、“里親”になる手続きをして「ヤマト」と名付けました。
人間は動物から力をもらって生きている
岡山市保健所の収容施設は地下にあり、日光が当たりません。「金曜日の夕方に職員が帰ると、月曜日の朝まで漆黒の闇」(田村さん)。そこでしばらく暮らしていたヤマトくんを連れて外に出ると…うなだれていた顔が上がり、表情が変化したそうです。
「施設ではボ~ッとしていて歩くこともままならなかったのに、外に出て太陽の光に当たったら、顔がグッと上がって、家に着いて車から降りるとトコトコ歩いたんです。みんなで号泣ましたね」(田村さん)
変化があったのはヤマトくんだけではありません。家を提供してくれた仲間の一人は、どちらかといえば無口で人づきあいが少なかったそうですが、ヤマトくんの散歩でご近所の方と交流が生まれ、生き生きとしてきたとか。
「お散歩中にヤマトのことを聞かれるので、殺処分になるところをギリギリで救えたと伝えると、皆さん『助けてもらってよかったね』とヤマトを撫でてくださる。お友だちは命を守れたことが自信に繋がったのでしょう、ご近所の方が『別人みたい』と言われるほどの変化でした。人間のほうがいっぱい助けてもらって、頼らせてもらって、動物から力をもらって生きているんですよね」(田村さん)
もともとシニアだったヤマトくんは、田村さんらと3年程暮らして旅立ちました。その期間を長いととらえるか、短いととらえるかは人それぞれでしょう。ただ、田村さんは「ヤマトからたくさんのことを学ばせてもらった」と言います。
ALL AS ONEのパンフレットには今もヤマトくんの写真とエピソードが掲載されており、その存在が活動の原動力。田村さんたちは多くの犬や猫を「殺処分」の危機から救ってきました。
ただ、15年たった今も課題は山積みです。岡山市は2017年以降、ボランティアと協働で保護犬・猫の譲渡に取り組み、殺処分ゼロを継続していますが、保健所の収容施設は環境が良くないまま。地下にあり、陽の光は入りません。
「犬の収容場所は地下の一番奥の奥。扉を閉めたら本当に漆黒の闇ですから、人間なら精神的にやられるでしょう。動物だって同じです。お日様の光はもちろん、夜にはお月様や星、街灯だっていい、光がどれだけ大切か、ヤマトの変化を見れば分かります。期限を切らなくなったのはいいのですが、その分、長くいる子がいる。小さなステンレスケージに押し込められている子たちもいますし、健康を考えて環境改善してほしいですね」
田村さんだけではありません。懸命に命を繋ごうと活動しているボランティアさんたちみんなの願いです。
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