神奈川県大井町の東名高速道路で昨年6月、あおり運転を受けて停車させられた夫婦が別のトラックに追突され死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などの罪に問われた石橋和歩被告(26)の裁判員裁判の第3回公判が5日、横浜地裁で行われたことを受け、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が「危険運転致死傷罪の適用が困難であっても、監禁罪が適用される可能性は残している」と指摘した。
起訴状によると、石橋被告は静岡市の自営業男性(当時45)に駐車方法を非難されたことに憤慨し、時速約100キロで男性の一家が乗った車を追い抜き、車線変更で進路をふさぐなどの運転を繰り返し、追い越し車線上に停車させて追突事故を誘発し、男性と同乗していた妻(同39)を死亡させたほか、娘2人にもけがをさせた。
小川氏は「追突事故が起きた際、エンジンがかかっていたとはいえ、石橋被告が運転席から離れていたという行為は走行に付随していないとも考えられる。運転と走行行為が対象となる危険運転致死傷罪の適用は難しいかもしれません」と解説。検察側は直前のあおり運転が停車後の事故につながったという因果関係を元に適用に踏み切ったが、弁護側は「因果関係はない」として反論している。
一方で小川氏は「監禁罪が適用される可能性が強い」と指摘した。石橋被告は、謝罪する男性の胸ぐらをつかんで車外に引きずり出そうとしていた。検察側も、被害者に車の再発進を困難にさせたなどの行為が監禁に当たり、その後の事故につながったとして監禁致死傷罪を加えている。
弁護側は被告が被害者に加えた行為と停車後の追突による死傷とは因果関係がないとして監禁致死傷罪の適用に反論して無罪を主張しているが、小川氏は「たとえ因果関係がなくても、容疑者自身が『逃げられないだろう』と考え、被害者に『逃げられない』と思わせていたのなら、たとえ短時間でも監禁罪が適用される可能性が強い。被告に未必の故意があったことも考えられます」と分析した。
「未必の故意」とは、その行為からその事実が起こるかも知れないと思いながら、そうなっても仕方がないと考える心理状態である。今回の石橋被告の行動がそれが当てはまるという見方もできる。
石橋被告は不敵な笑みをもらして気のない返答を繰り返していた前日までの態度を一変させ、この日の被告人質問では前方を向いて小声で「こういう事故を起こして申し訳ないことをしたと思います。本当にすいませんでした」と述べた。小川氏は「(裁判官の心証を悪くするなどと)弁護士に注意されたのかもしれませんが、遺族の生の声を聞いて、ようやく事の重大さに気づいたのかもしれません」と印象を語った。
公判は7回予定され、判決は14日の予定。