ただし、アニサキスはほとんどが人間の体内では1週間以内に死滅し、70度以上の加熱、マイナス20度の24時間冷凍をしても死滅するとされています。ただ、醤油(しょうゆ)、お酢などで調理をしても死滅はしません。時々、想定外の元気なアニサキスが人の生体内で長生きしたり、腸を食い破ったりするので、やはり油断は禁物です。
治療の第一選択は、内視鏡による摘出ですが、内視鏡は必要ないとの報告もあります。アレルギーを抑える注射と香蘇散という漢方薬で、ほとんどのアニサキス症を治療できるとの報告を見たことがあります。ただ、私は、万全を期すため一般的な内視鏡による摘出を第一選択としたいと思っています。
他にも、牛や豚の不完全調理を食して、有鉤条虫、無鉤条虫に感染することもあります。私が医者1年目のとき、現在は禁止されているユッケ(牛の生肉)が市場に出回っており、焼肉店にいけば、ユッケ、塩タンの順番に食していたものです。私は外科にいたのですが、内科の同級生と焼肉に行き、ユッケを食べていると、なんと!その友人はユッケを焼き始めました。同席したみんなが「おいしいユッケが台無しや!」と怒り出すと、友人はユッケを食べた患者さんが有鉤条虫症になり、治療しているからと言いました。みんなはその気持ちを理解し、彼だけはユッケを焼いて食べることを“許可”して、その場のムードは落ち着きました。
その他にも、マラリア原虫、赤痢アメーバ、回虫、日本住血吸虫、横川吸虫症、エキノコックスなど、世の中には様々な寄生虫が存在します。加熱、冷凍調理をしても感染を100%防ぐことまでは不可能なので、生食の際にはそれなりに注意が必要です。ただ、先ほどの話に戻りますが、身近に、そんな経験をした人間がいても、その後もユッケは私の好物でした。こんなことを書きつつ、近いうちにお寿司を頂きたいなぁ…という妄想も膨らませています。
寄生虫が怖いからといって、生食を全く食べずに生きていくのは辛いですし、現実的ではないと思います。私自身は生食を食する頻度に気をつけ、医学的な意味で「予防」とは言いがたいのですが、口に運ぶ前に目視で確認することを忘れず、よく噛んでいただくことにします。