日本が世界トップクラスの消費量を誇る「イカ」は、刺身でも煮ても焼いてもおいしく、とても身近な食材です。そんなポピュラーなイカですが、生食するときに「精子」を食べたら非常に危険ということをご存知でしょうか?
イカは約450種類も存在していると言われていますが、そのうち日本海には約140種類が生息しています。食用されているのは約30種類で、スルメイカがもっとも多く、他にはヤリイカ、ケンサキイカ、コウイカなど。どのイカも共通して、生食するときには内臓部分に含まれている「精子」に要注意です。
オスのイカの内臓部分には、透明な袋状になっている「精莢嚢(せいきょうのう)」という生殖器官があり、その中には約100個もの「精莢(せいきょう)」が蓄えられています。この精莢は直径0.1mmほど、長さ0.5~2㎝ほどの細長い筒状になっています。
オスのイカは腕で精莢をメスに渡して突き刺しますが、精莢の先端に刺激が与えられると、中から「精子塊」が勢いよく発射される仕組みとなっています。もしも人間が万が一、この精莢を食べてしまうと、口腔内に精子塊が発射されてしまうこととなり、激痛を伴います。
しかもこの精子塊の先端は、抜けにくいようにトゲ状になっています。口腔内に刺さってしまうと自力で取り出すことが難しいため、口腔外科で摘出手術を行わないといけない場合があります。
そんなイカの「精莢」の様子を撮影した動画が、YouTubeチャンネル「さかなや水嶋」に投稿されました。動画には、ケンサキイカをさばいて「精莢嚢」を取り出し、その「精莢嚢」を切り開くと、中から大量の精子塊が出てきて、ウジャウジャと動いている様子が撮影されています。
動画を投稿したのは、京都府舞鶴市で「さかなや水嶋鮮魚店」を営む水嶋さんです。水嶋さんに、イカの精莢・精子塊について話を聞きました。
ーーイカが死んだあとも、精子塊はしばらく動いているのでしょうか?
「イカが死んでも『精莢嚢』という袋に包まれているうちは少しの間、生き続けているので注意が必要です。精子塊が完全に飛び出てから、しばらくすると動かなくなります。素手で触ると、ピリピリとした痛みを伴うこともあります」
ーーしっかり火を通して加熱処理すれば、精莢を食べても問題ないのでしょうか?
「しっかり火を通せば食べられると思いますが、おいしくはないと思います。リスクを考えると、食べない方が良いと思われます」
ーーもしもイカの精子塊が胃の中に入ると、アニサキスのような胃痛症状になる可能性はありますか?
「口腔内に刺さると痛みが伴うと聞きますが、胃袋まで到達したという報告は私は聞いたことがないですね。アニサキスの場合はアニサキスが出したアレルギーのアニサキス症もあるので、また違う痛みかもしれません」
ーーメスのイカの場合は、特に注意点はありませんか?
「メスのイカについては、特に注意することはありません。たまに口の周りに精子がついていますが、寄生虫と勘違いしないようにしてください」
ーーちゃんと精莢を取り除けば、素人でも安全にイカをさばいて食べることはできますか?
「基本的に内臓はきれいに取り除いてから水洗いするため、あえて内臓を食べようとしない限り口に入ることはありませんので、素人でも大丈夫だと思います。ただ、イカにはアニサキスなどの寄生虫がいる可能性がありますので、しっかり目視確認して除去するよう注意してください。イカのワタを食べるときも、精莢やアニサキスのリスクを考えると、しっかり加熱調理した方が安全です」
ーー厚生労働省では、アニサキス予防のためにも、生食するときは冷凍後に解凍してからの生食を推奨していますが、スーパーで販売されている生イカはいかがでしょうか?
「あえて冷凍して鮮度を悪くして買うお客様はいないと思いますので、スーパーで売られてる生イカも、基本的には冷凍されずにそのまま生で直送されています。解凍で売られてるのは、イカの入荷がないときにストックを出しているときなどがあると思います。
一昔前までは、消費者は自分の安全は自分で理解して、感じて、良いもの悪いものを判断して購入していましたが、ここ最近は、何かあれば売り手の責任になる時代です。冷凍して安全を守れば美味しくないと判断され、生で販売し鮮度を保つと、もしも虫がいたらクレームがきてしまいます。もちろん販売者として食の安全を守ることは当然ですが、消費者自身も正しい知識を身につけて、魚を安全に美味しく食べてほしいと思います」
厚生労働省からもアニサキスの注意喚起として、イカやサバなどを丸ごと一匹調理するときには、内臓を速やかに取り除くこと、内臓を生で食べないこと、しっかり目視確認してアニサキス幼虫を除去するよう告知しています。アニサキスの予防としては、冷凍ならー20℃で24時間以上、加熱なら70℃以上もしくは60℃なら1分以上を推奨しています。令和4年度では、日本全国で578件のアニサキス食中毒発生状況(患者数)が報告されています。
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「さかなや水嶋鮮魚店」では、舞鶴近海で獲れた新鮮な天然のお魚を、日本全国に発送しています。「さかなや水嶋」の情報は、YouTubeチャンネル「さかなや水嶋」、Instagram(@mizushimanaoki)、Twitter(@naokim817)、TikTok(@sakanayamizushima)で見ることができます。