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高市政権発足から1年 冷え込み続く日中関係の今後のシナリオ 11月のAPECがポイントか

和田 大樹 和田 大樹

2026年10月21日、高市早苗首相の就任から1年を迎えた。

この1年間、日中関係は大きな転機を迎えた。経済的な相互依存を維持しながら対話を重ねる従来の関係管理は難しさを増し、台湾海峡の安全保障、重要鉱物の供給、日米同盟をめぐる戦略的な対立が前面に出ている。今後の日中関係を考えるうえで重要なのは、両国が単に対立を深めているという事実だけではない。安全保障上の懸念が経済や人的交流に波及し、関係悪化そのものが日本企業の経営判断や日本の外交戦略を左右する段階に入ったことである。

2025年11月の国会答弁が契機

関係悪化の大きな契機となったのは、2025年11月、高市首相が国会答弁で、台湾有事が日本の存立危機事態になり得るとの認識を示したことだった。中国政府は強く反発し、発言の撤回を求めた。台湾問題を主権と核心的利益に関わる問題と位置付ける中国にとって、日本の首相が台湾海峡の有事と日本の安全保障を直接結び付けたことは、看過しにくいものだったと考えられる。

一方、日本政府にとって台湾海峡の平和と安定は、日本の安全保障や海上交通路、地域の経済活動に直結する問題である。高市政権が中国側の要求に応じて発言を撤回すれば、国内政治だけでなく、台湾海峡の安全保障に関する日本の姿勢にも影響を及ぼしかねない。したがって、この問題は首相個人の発言をめぐる応酬にとどまらず、日中両国の安全保障認識の隔たりを象徴する争点となっている。

余波は外交・安全保障分野だけにとどまらない

この1年間、日中関係の悪化は外交・安全保障分野にとどまらなかった。中国側は日本への渡航を控えるよう呼び掛けたほか、2026年には軍民両用(デュアルユース)品の対日輸出管理を強化した。レアアースなどの重要鉱物をめぐる供給不安も、日本企業にとって無視できない問題となっている。こうした措置が企業活動に及ぼす影響は、個別の輸出入の問題だけではない。調達先の変更、生産計画の見直し、在庫の積み増しなどを通じ、企業のコスト構造やサプライチェーン全体に波及する可能性がある。

中国にとっても、日本との経済関係を一方的に縮小することには負担が伴う。日本企業の技術や設備、投資は中国の製造業や雇用とも結び付いているためだ。ただし、経済的な相互依存が必ずしも政治的な対立を抑えるとは限らない。むしろ、重要鉱物や先端技術など、供給網の集中度が高い分野では、相互依存そのものが外交上の圧力手段となり得る。

日本に求められるのは、中国との経済関係を一律に縮小することではなく、特定の国や地域に過度に依存するリスクを抑えることだ。重要鉱物の調達先の多角化、代替材料の開発、国内での資源循環、重要技術や機微情報の管理を進めることは、経済安全保障の観点から重要となる。企業にとっても、中国市場の成長性だけでなく、政治的緊張が事業継続に与える影響を織り込んだ経営判断が必要になっている。

改善したいという意志はあるが…

もっとも、高市首相は日中関係を改善したいという意志を持っている。高市首相は2026年10月の所信表明演説で、中国を「重要な隣国」と位置付け、建設的かつ安定的な関係の構築を目指す姿勢を示した。同時に、東シナ海・南シナ海情勢、中国の軍事活動、日本人の安全などに関する懸念については、引き続き日本の立場を主張する方針を明らかにしている。対話の継続と安全保障上の警戒を両立させようとする姿勢である。

ここから読み取れるのは、高市政権が対中関係の安定を望みながらも、関係改善のために安全保障上の基本姿勢を大きく変更することには慎重だという点だ。一方、中国側も台湾問題で日本の譲歩を求めており、双方が自らの立場を維持する限り、短期間で根本的な和解に至る可能性は高くない。議員や経済界を通じた交流が再開しても、それだけで政府間の対立が解消するわけではない。

APECで会談が実現するのか

今後の焦点の一つは、11月に中国・深圳で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)である。高市首相と習近平国家主席の会談が実現するか、また実現した場合に、対話の継続だけでなく具体的な懸案の解決に向けた進展があるかが注目される。また、実務協議や経済交流にどのような変化が生じるかも重要となる。

日中関係の今後には、大きく三つの展開が考えられる。首脳間の意思疎通を契機に、経済や人的交流など限定的な分野で関係が安定するシナリオ、外交対話は維持されるものの、安全保障上の対立と経済的な圧力が続くシナリオ、そして、台湾海峡や東シナ海をめぐる緊張が高まり、輸出管理や企業活動への影響がさらに拡大するシナリオである。現時点では、対話の余地を残しながらも、構造的な対立が続く展開を想定しておく必要がある。

高市政権発足からの1年は、日中関係において、経済的な結び付きだけでは安全保障上の対立を抑えきれない現実を浮き彫りにした。日本に必要なのは、中国との対話を継続しながら抑止力を確保し、経済的な依存を管理するという難しい政策運営である。日中関係の行方を決めるのは、首脳同士の言葉だけではない。台湾海峡の情勢、重要鉱物の供給、外交ルートの維持、そして両国が対立を管理する意思を持てるかどうかである。今後の焦点は、関係が改善するか否かという二者択一ではなく、対立を抱えたまま、どこまで危機を回避し、実利的な協力を維持できるかに移っている。

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