地方都市で暮らす55歳の会社員・中村さん(仮名)。妻と高校生の長女との3人暮らしです。父は3年前にアルツハイマー型認知症と診断され、要介護3の認定を受けています。自宅での生活が難しくなり、1年前から特別養護老人ホームで暮らしています。
これまで目立ったトラブルはありませんでしたが、ある日、施設から「お父さまが職員をたたいた」と連絡が入ります。中村さんが施設へ向かうと、父は興奮した様子でした。なぜ職員をたたいたのか、中村さんには分かりません。自宅で介護していたときには、このような行動はほとんどありませんでした。中村さんは、「なぜ急に職員をたたいたのだろう」「家族として何を伝えればいいのだろう」と戸惑います。
認知症の親にこうした行動が見られた場合、家族は施設からの連絡をどう受け止め、どのように関わればよいのでしょうか。施設から説明を受ける際のポイントや、家族だからこそ伝えられる情報について整理します。
施設から連絡があったら、まず何を確認する?
職員をたたくなど、これまでと違う行動があった場合は、その行動だけで判断せず、前後の状況を確認することが大切です。施設によって説明や対応の方法は異なりますが、どのような場面で何が起きたのかを整理することが、その後の対応を考える手がかりになります。
◆行動が起きたときの状況を確認する
「職員をたたいた」という結果だけでなく、その前後にどのような状況があったのか、施設から説明を受けます。
例えば、次の点を聞いてみるとよいでしょう。
・いつ、どこで起きたのか
・その直前に何をしていたのか
・どのような声かけや介助が行われたのか
・本人はどのような様子だったのか
・行動の後、どのように落ち着いたのか
こうした情報を整理することで、本人が不安や混乱を感じたきっかけを考える手がかりになります。
◆体調や生活環境の変化も確認する
体調や生活環境に変化がなかったかも含め、行動の背景を整理します。例えば、次のような変化がなかったかを確認します。
・発熱や痛みなど体調面の変化
・睡眠や食事の状況
・薬の変更や服薬状況
・部屋替えや担当職員の変更
・生活リズムの変化
原因を一つに決めつけるのではなく、複数の要因が重なっていないかも確認します。施設で把握している本人の様子と、家族が知っているこれまでの生活や性格について情報を共有しながら考えていきます。
◆家族だから分かる本人の情報を伝える
施設での日常的なケアを担うのは施設側ですが、本人の性格や生活習慣、苦手なことなど、家族だから分かる情報もあります。
例えば、「急かされることを嫌がる」「着替えを手伝われることに抵抗がある」「大きな声で話しかけられると不安になりやすい」など、これまでの本人の様子を伝えることで、今後のケアを考える材料になる場合があります。
今後のケアについて施設と話し合う
施設から状況について説明を受けた後は、今後のケアについて関係者と検討します。
◆施設と家族で情報を共有する
施設によって関わる職種や話し合いの方法は異なりますが、施設で把握している本人の様子と、家族が知っている性格や生活習慣などを共有しながら、今後の対応を検討します。
◆本人に合ったケアや生活環境を見直す
施設側では、行動が起きた背景を踏まえ、本人が不安や混乱を感じにくい環境や、本人のペースに合わせた声かけ・介助方法などを検討します。必要に応じて、施設内の関係職員や主治医などが情報を共有しながら対応を考えます。
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中村さんは、父が職員をたたいたときの状況について施設から説明を受けました。すると、着替えを促された際に父が強く拒否し、職員が介助を続けようとしたところ、手を振り払うようにして職員をたたいたことが分かりました。
中村さんは、父が自宅で暮らしていた頃の性格や生活習慣、着替えを急かされることを嫌がっていたことなどを施設側に伝えました。中村さんから聞いた情報も踏まえ、施設では父が落ち着いて過ごせる声かけや介助方法を検討することになりました。
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。