お出かけや旅行、出張の際に便利な経路検索ツール。今、SNS上ではそんな経路検索ツールの江戸時代バージョンが大きな注目を集めている。
グラフィックデザイナーの加藤創さん(@chizutodesign「地図とかデザインとか」)が開発したのは「江戸時代の経路検索」。
マップ上で発着地点と、徒歩・馬・早駕籠・継飛脚の4つから移動手段を選ぶと、ルートと概略日数が表示される。たとえば江戸から京まで、徒歩で東海道経由で行くと14日、中山道経由で行くと16日と計算されるというわけだ。
現在のように車や鉄道がなかった時代の旅を感じられるこの経路検索ツール…はたしてどのような思いで開発されたのだろうか。
加藤さんに話を聞いた。
ーー「江戸時代の経路検索」を開発された経緯をお聞かせください。
加藤:2019年、当時のTwitterに「江戸時代のGoogleマップ風地図」を投稿したところ、大きな反響をいただいたことがきっかけでした。その際、経路検索風の画像も作成し、いつか必ず本物の動く経路検索サイトを作りたいと思っていました。
その願いを叶えてくれたのが、AIの発達とオープンデータです。私のようにコードが書けなくても、AIによってサイトや簡単なアプリの作成が可能になりました。さらに、今年7月にROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)から『江戸主要街道データセット』『江戸宿場データセット』がオープンデータとして公開され、これらを活用し経路検索サイトを作成・公開することができました。
ーー開発にあたりこだわったこと、ご苦労されたことなどお聞かせください。
加藤:所要日数の計算に徒歩以外の「馬」「早駕籠」「継飛脚」の交通手段を入れていること、また計算結果には「江戸時代の人にとってのリアルな数字」を出すことにこだわりました。
たとえば移動手段では「馬」を選べますが、当時の庶民は馬子が引いて歩く「引き馬」で、速さは徒歩とほとんど変わらなかったそうです。独立して騎乗できたのは武士の特権でした。「馬に乗れば速い」という現代の直感が通じないところが面白いと思います。
「早駕籠」の中で最上位の速さは、赤穂浪士が刃傷事件の一報を江戸から赤穂まで4日半で伝えた記録から逆算しました。
計算にもこだわりました。当時の人は1日10里(およそ40km)歩いたと言われますが、平地と山道では歩くスピードも違います。地形から勾配を計算し、山道では平地より距離を加算することでよりリアルな日数を出すことを目指しています。江戸から京都まで当時は13〜15日ほどかかっていたという記録があり、計算結果はおおむね妥当なのではないかと思います。
ーー完成した感慨をお聞かせください。
加藤:技術の発達と、オープンデータによって7年越しの念願が形になり、素直にうれしいです。
ただ、現在ルート検索に使える街道は47本で、「この街道がない」というご指摘も多くいただいています。今後は他の街道や海路なども拡充していけたらと思います。
ーーこれまでの反響へのご感想をお聞かせください。
加藤:想像以上の反響に驚いています。「江戸時代の人はこんなに歩いたのか」という声などをいただき、大変ありがたく思っています。歴史地図に関心を持つ方がこれほどいるのだと実感しました。
◇ ◇
SNSユーザーたちから
「これは有難いです。島崎藤村の『夜明け前』を愛読していますが、主人公の足取りが一目瞭然です。また、旧道マニアとしても、昔の街道との関連がわかり、貴重な資料です!活用させていただきます」
「すごい 。徒歩も、当時の人の歩くスピードと現代人の歩くスピードと二つあると想像でのお伊勢参りとか夢想できそうです」
「ありがとうございます!! 慶長出羽の合戦で上杉勢が関ヶ原の結果を知るまでどれくらいかかっていたのか気になっていました、当時は五街道もそこまで整備されてはいなかったので当時はもう少しかかっていたとは思いますがおおよその日数を知る事が出来ました」
「ご苦労なさいましたね。ところで、江戸時代の交通手段は水上交通も重要だったはずです。海路だけでなく、河川の舟運は現在の高速道路網のような役割を果たしていたと思います。船は荷物だけでなく人も運びました。そういう点も加味していただけると有難いです」
など数々の感謝の声やリクエストが寄せられた今回の発表。
なおインタビュー中で触れられた街道データについては、加藤さんが勤務する株式会社MIERUNEが人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)との共同研究として制作に関わっている。他にも様々なデータがオープンデータとして公開されているので、ご興味のある方はぜひチェックしていただきたい。
また加藤さんの個人活動から始まった江戸時代の現代風地図サービス「れきちず」にもこれを機会にぜひ再注目してほしいと思う。こちらには経路検索に入っていない街道も収録されており、いずれはこのサービス内でも経路検索できるようになることを目指しているそうだ。
【加藤創さん関連情報】
▽Xアカウント「地図とかデザインとか」
https://x.com/chizutodesign
▽江戸時代の経路検索
https://maps.chizutodesign.com/edo-routing/
▽人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)
https://codh.rois.ac.jp/historical-gis/
▽れきちず
https://rekichizu.jp/